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債券バブルの崩壊事例、歴史は繰り返すか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 1986年11月に日本の国債の指標銘柄になったのが10年国債の第89回債である。89回債の市中向け発行量は2兆7075億円と当時としてはかなり大型の指標銘柄であった。当時の国債の指標銘柄とは10年国債のなかで発行量が比較的多く、売買高の最も多い国債のことを指していた。

 債券市場はこの89回債を中心にいわゆるディーリング相場となった。証券会社や都銀などが積極的にディーリングを繰り返した結果、1987年4月の公社債の店頭売買高は1000兆円を超えた。

 1987年5月14日に89回債は10年債でありながら、当時の日銀の政策金利であった公定歩合の2.5%に接近した。日本相互証券の端末には、89回債の売りが、2.555%に約3000億円、2.550%には約2000億円もまとまって並んでいた。それが一気に買い上げられた。これを全部買ったのが「公定歩合が高すぎる」というコメントをした大手証券会社のチーフディーラーといわれている。結局、ここで債券バブルは終焉する。この2.550%が当時の10年債の最低利回りとして記録されることになった。

 2.5%もの金利がついていたことに驚く人もいるかもしれないが、当時の政策金利に長期金利が接近し、そこがピークとなって債券バブルが崩壊したのである。その結果、同年9月のタテホショックが起きた。タテホ化学工業が債券先物で286億円もの損失を出したことが明らかになり、債券相場はさらに暴落したのである。

 今年の9月19日にブルームバーグのサイトに「債券市場と米当局の金利見通し巡る開きに落胆-グッゲンハイムCIO」という記事が掲載された。2090億ドル余りを運用管理するグッゲンハイム・パートナーズのスコット・マイナード最高投資責任者(CIO)が「市場がさらなる行動を織り込んでいるだけに、FOMCの結果に私は失望した」と述べ、10月のFOMC前に米金融当局が今年3回目の利下げ検討に前向きな姿勢を示唆し始めない限り、さらに「市場が動く必要が生じるだろう」と語ったそうである。

 まさに「利下げ幅が小さすぎる」として、市場が動く、つまりに自らも利下げを促すような買い仕掛けをするかのような発言であった。このニュースをみて思い出したのが、上記の「公定歩合が高すぎる」というコメントであった。

 現在の日欧米の国債の利回りをみれば、債券バブルであることは確かである。物価指標や株価などとの連動性も薄れている。1987年の債券バブル時は89回債という指標銘柄だけが突出して買われていたので、現在の状況とは異なる面もある。しかし、今回の世界的な長期金利の低下も仕掛け人がいるはずである。中央銀行の政策金利にまで市場参加者が口に出すこと、ポジショントークのような金融緩和を促すような発言があること自体、やはりおかしいと言わざるを得ない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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