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日銀化しているECB

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 ECBのドラギ総裁は7月の理事会後の会見で、利下げと資産買い入れ策再開の可能性を示唆していた。

 これに対して、これまで沈黙を保ってきたフランス銀行のビルロワドガロー総裁が債券購入再開に懐疑的な見方を示唆した。仏誌ラジェフィとのインタビューでビルロワドガロー総裁は、ECBが既に蓄積した資産は「高水準」にあり、長期債利回りを大幅に押し下げているとの認識を示した。

 すでにバイトマン・ドイツ連邦銀行総裁、クノット・オランダ中銀総裁、ホルツマン・オーストリア中銀総裁が直ちに量的緩和(QE)を再開する必要性に疑義を呈していた。中核国を中心に資産買い入れ策再開に対して疑問の声が出されていたのである。

 ドラギ総裁にとり、退任まであと2回の理事会を残すのみとなっている。積極的な金融緩和政策により欧州の信用危機を脱することに成功したとの自負もあるとみられ、今回の世界的なリスク回避の動きに対処しようとしているが、それに待ったが掛けられている。

 ドラギ総裁は2012年に「何でもやる」と言っていたが、現実問題として「資産買い入れ」による効果は現在では薄れている。欧州の信用危機によりギリシャやスペイン、ポルトガルそしてイタリアなどの国債が大きく売られているときならば、中央銀行の買入によって市場の不安感をある程度取り除けるであろうが、いまはイタリアの長期金利が過去最低を更新している状況にあり、ここで国債を買い込んでも中央銀行の保有資産がただ増えるだけとなりかねない。

 これについては日銀も同様であり、黒田総裁はいくらでも手段はあると言っているが、長期金利が過去最低水準近くまで低下し、日銀はこつこつと「量」に対しては調整を図っているなか、ここであらためて国債買入の量を増やしてもほとんど市場への効果はない。市場がそれで安心するどころか、余計なことはやってくれるなということになろう。

 これは欧州も同様であると思われる。そして日銀と同様にマイナス金利政策まで導入してしまっているなか、ここで政策金利のマイナスを深掘りしても、その効果もないどころか、副作用が大きくなり、景気に対してマイナスとなる懸念すらありうる。このため、ベストな手段としては動かないことであると思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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