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米中貿易戦争が悪化の一途、リスク回避の動きが加速してきた背景

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 8月1日の米国時間の午後に、トランプ大統領が3000億ドルの中国製品に9月1日から10%の追加関税を課すとツイートしたことで、金融市場の状況が一変した。1日の米債はリスク回避の動きから、10年債利回りは一時、2016年11月以来の低水準に低下し、2%の節目を大きく割り込んだ。昨日の米10年債利回りは1.89%と前日の2.01%から大きく低下した。原油先物相場は大幅に反落、ここ4年余りで最大の下げとなった。この日のダウ平均は280ドル安、ナスダックは64ポイントの下落となった。

 中国外務省が2日、中国は対抗措置を取らざるをえないと報復を示唆したことから、2日の米国株式市場は、米中貿易摩擦が厳しくなるとの懸念が広がり、ダウは98ドル安、ナスダックも107ポイントの下落に。対中貿易戦争の激化懸念から米債には引き続きリスク回避による買いが入り、2日の米10年債利回りは1.84%に低下した。

 米国時間5日午後には、中国商務省が米国からの農産品の購入を一時停止する制裁措置を発表した。さらに中国当局が元安を容認したとの見方から人民元は一段安となった。これについてトランプ大統領はツイッターで為替操作だと断言し、「中国をやがて大きく弱らせる重大な違反だ」と非難した。そして、米財務省は5日、中国を「為替操作国」に指定したと発表した。トランプ大統領の指示であろう。

 5日のダウ平均は767ドル安、ナスダックも278ポイントの下落となった。リスク回避姿勢が強まり、米債は買い進まれ米10年債利回りは1.71%に低下した。

 外為市場ではリスク回避による円買いが進み、米財務省は5日、中国を「為替操作国」に指定したこともあり、ドル円は一時105円半ばに下落している。また、5日から韓国のウォンも急落するなど、リスク回避の動きがあちらこちらに波及しつつある。

 欧州では国債利回りが低下し、ドイツやフランスとオランダの10年債利回りは過去最低を更新した。ECからの離脱問題を抱える英国の10年債利回りも5日に一時0.49%まで低下し、2016年8月に付けていた過去最低を更新した。

 日本の10年債利回りも6日にマイナス0.215%と日銀の長期金利コントロールの下限の0.200%を一時的に下回ってきている。

 今回の世界的なリスク回避の動きはさらに深みにはまるのか。今回の市場の動きは、景気実態を反映しているというよりも、米中の関係悪化による世界経済への影響が懸念されていることが大きい。ここに日韓関係の悪化なども加わり、ひとまずリスクの高いものから低いものへの資金シフトが一斉に起きている。ここまで金融市場のリスクが高まるとなれば、日米欧の中央銀行も何らかの措置を取らざるを得なくなろう。しかし、その前に米中の関係改善に向けて、日本を含め各国が働きかける必要がある。それで言うことをきく相手ではなさそうなのが、さらにリスク回避の動きを強めかねないことも確かなのだが。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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