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市場はあれだけのメンバーのいた福岡のG20財務大臣・中央銀行総裁会議にはあまり注目せず、それは何故か

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 日本が初めて議長を務めるG20財務大臣・中央銀行総裁会議が8日から9日にかけて福岡で開催された。

 G20の参加メンバーはG7(カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、イギリス、米国)、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、インド、インドネシア、韓国、メキシコ、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコの各国財務大臣、中央銀行総裁、EU議長国財務大臣と欧州中央銀行(ECB)総裁、数か国の招待国の財務大臣・中央銀行総裁及びIMFや世界銀行等の国際機関の代表となる。

 共同声明では、「世界経済の成長は、足元で安定化の兆しを示しており、総じて、本年後半及び2020年に向けて、緩やかに上向く見通しである」としたものの、「しかしながら、成長は低位であり続けており、リスクは依然として下方に傾いている。何よりも、貿易と地政を巡る緊張は増大してきた」とした。名指しは避けたが米国と中国の貿易摩擦による影響を懸念したものとなっている。

 そして、「下方リスクから守るために全ての政策手段を用いるとの我々のコミットメントを再確認する」ともあり、世界経済の下振れリスクに対して協調して対応する姿勢を示した。

 日銀の黒田総裁は20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が開かれた福岡市内で10日、ブルームバーグテレビジョンの単独インタビューに応じ、必要ならさらに大規模な緩和を行うことができると述べるとともに、追加緩和に踏み切る際は副作用を減らすために最大限配慮する意向を明らかにした(ブルームバーグ)。

 現実的に副作用を伴わない大規模な緩和手段はあるのかとの問題はさておき、この発言は今回の共同声明に即したものといえる。

 G20後の記者会見で黒田総裁は「リスクが顕現した場合にきちんと対応しようとしたことだ」とも語っていた(日経新聞電子版)。

 ところでG20財務大臣・中央銀行総裁会議を終えたあとの10日の東京市場では、ほとんどG20のことは材料視されなかった。これはこれでやや不可解なものといえる。もちろん何かしらの言動が期待されていたわけでもなく、市場にインパクトを与えるような声明が出るとの見方があったわけでもない、

 それでも参加したメンバーをみると市場はもう少し、個々のメンバーの発言等を聞きたかったのではないかと思われる。現在の金融市場はかなり振れの大きなものとなっており、それに関わっている人達が何人もいたためである。

 たとえば米国と中国の通商交渉の代表の一人は米国のムニューシン財務長官であり、当然、今回も出席している。中国からの出席者もいる。7日の米国株式市場や米国債が買われた背景には、FRBによる利下げ期待があった。今回の会合にはパウエルFRB議長も参加していた。そして7日に欧州の国債が買われたのは米債高だけでなく、ECBの利下げ期待も出ていた。G20の集合写真をみると端のほうにひっそりとECBのドラギ総裁がたたずんでいる姿があった。ECの離脱問題を抱えている英国からもハモンド財務相とともにイングランド銀行のカーニー総裁も参加している。

 あくまで市場は日銀も含めた中央銀行に対する緩和策への期待が先行しているに過ぎず、たとえ関係者にインタビューをしても市場が期待しているような発言は引き出せないかもしれない。しかし、少しでもこれら関係者の発言が伝わっていれば、市場はもう少し福岡に目を向けていたかもしれない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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