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一万円札、五千円札、千円札の紙幣のデザインを一新する理由

久保田博幸金融アナリスト
(写真:アフロ)

 財務省は9日、千円、5千円、1万円の紙幣(日本銀行券)を2024年度上半期に一新すると発表した。紙幣のデザインの変更は2004年以来、20年ぶりとなる。

 私たちが使っているお札やコインは現金通貨とも呼ばれる。このうちお札、つまり日銀券の「発行」は日銀が行っている。ただし、日銀券の「製造」は独立行政法人国立印刷局が担当している。製造された紙幣は日銀がその費用を支払って引き取る。

 銀行などの金融機関は個人や企業への支払に必要な分を用意するため、日銀の当座預金から引き出すことによって日銀券を日銀の窓口から受け取る。これよって日銀券が世の中に送り出され、お札の「発行」となる。

 さてその紙幣のデザインを決めるのは誰なのか。日本銀行法の第四十七条に日本銀行券の種類は政令で定めるとあり、その第二項に「日本銀行券の様式は、財務大臣が定め、これを公示する」とある。

 麻生財務相は9日の閣議後の記者会見で1万円札などの紙幣を刷新すると発表、その際の会見で肖像の人選は財務相が決めたのかとの問いに対して、「最終的には財務相で決めることになっている。私の方から事務方に指示した」と答えていた。

 また麻生財務相は最大の目的はとの問いに対し、「これまでも紙幣は20年ごとに改刷して、偽造への抵抗力を確保してきた」と答えており、偽造への対応としている。デザインの変更を一定期間毎に行うのは、偽造に対処するための技術の伝承なども意識されているとみられる。

 さらに「海外では資金洗浄対策のため高額紙幣を廃止する動きもある。1万円札を廃止する検討は」との問いに対しては、「なかった。流通枚数が一番多いというのも理由の一つだ」と麻生財務相は答えている。

 政府はキャッシュレスを進めているのにおかしいではないかとの問いにも聞こえるが、現在進められている日本のキャッシュレス化はQRコード決済など小額取引の商決済が主体であり、商取引上のキャッシュレス決済を進めることと1万円札の廃止は直接結びつけることはやや論点が異なる。また1万円以上の決済については銀行振り込み、口座振替、クレジットカード利用等で行われることが多いとみられ、こちらのキャッシュレス化は決して日本が遅れているとは思えない。問題なのはタンス預金とみられるが、これはすべて犯罪に利用されているとすれば、日本はなかなかの犯罪国家となってしまうと思うのだが。

 それはさておき、財務省は新しい紙幣の発行に便乗した詐欺が発生するおそれもあるとみて、注意を呼びかけているそうである。具体的には、例えば「今の紙幣が使えなくなる」などとうその電話をかけて、現金をだまし取る手口などを挙げているとか。

 日銀券は日銀法で法貨として無制限に通用すると定められている。日銀がこれまで発行した53種類のお札のうち、現在使うことのできないお札が31種類ある。この31種類とは、関東大震災後の焼失兌換券の整理に伴うものや、終戦直後のインフレ進行を阻止するため行われたいわゆる新円切替に伴ってのもの、「銭」表示のような1円未満の小額通貨で、これらは3回にわたって回収・廃棄が行われ、その結果この31種類のお札は現在、通用力を失っている。しかし、戦後の新円切り換え後、我々が普段使用してきた円単位の紙幣は「強制通用力がある」ことで、デザインが切り替わろうが、使えることに変わりはない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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