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FRBの利上げ停止観測は金融市場の救世主になりうるのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙(電子版)が「FRBは18~19日のFOMCで利上げをした後、(利上げを一時休止して)様子をみることを検討している」と報じた。

 6日の米国株式市場では、ダウ平均は一時785ドル安まで下がったが、この記事を受けて急速に下げ幅を縮小させて結局、ダウ平均は79ドル安となった。

 以前にもFRBのパウエル議長は、金融当局が進めている政策金利の引き上げについて、将来のある時点でいったん休止する可能性があることを示唆したことがある。これは今年8月の出来事であったが、現実には9月に利上げが決定され、12月もFOMCでも利上げが決定されていると見込まれている。

 パウエル議長は11月28日のニューヨークでの講演で、「金利は歴史的な基準ではなお低く、依然として経済に対して中立な水準を巡る幅広い推計値をわずかに下回る」と述べ、政策金利が景気をふかしも冷やしもしない「中立金利」に近いとも言及した。

 市場ではこの発言を受けて利上げの打ち止めが近いのではないかとの思惑が広がった。このときの講演の主題が金融政策ではなかったことで、何かしらの示唆を与えたわけではないとの見方もあった。しかし、私はこの発言は意図的なものではなかったかと思っている。ニュアンスが大きく変化してきた兆しのように思えた。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙の記事も観測に過ぎないかもしれないが、FRBの意志が見え隠れしているように思われる。現在の米国を取り巻く状況や金融市場の動向を見る限り、FRBの利上げについては12月18~19日のFOMCの利上げでいったん打ち止めして、様子を見る必要があるのではないかと思われる。

 米中貿易戦争は一時休戦となったが、今後はファーウェイ問題なども絡みさらに激化する懸念がある。原油を巡る動きも不透明感強め、英国のEU離脱を巡る今後の動きも読めない状況にある。

 私が先月末に書いた「米国利上げの早期打ち止め観測」でも指摘したが、現実には12月のFOMCでの利上げは行っても、それ以降はかなり不透明感を強めることも予想される。今回のパウエル議長の発言(11月28日のニューヨークでの講演)の背景としては、トランプ政権への配慮といったものではなく、原油価格が大きく下落するなどしていることで、米国景気そのものの減速懸念などがあると思われる。そうであれば雇用統計など含めた経済指標での悪化が目立つようになれば、利上げを早めに停止してくる可能性はある。

 ちなみに7日に発表された11月の米雇用統計では、非農業雇用者数は前月比15.5万人増と予想を下回ったが、失業率は3.7%と横ばいとなり、平均時給伸び率は前年同月比3.1%と高止まりした。この数値を見る限り、いまのところ米国の景気減速感はそれほど出ていない。

 注意すべきは、FRBが来年の利上げを休止したとしても、それで米国株式市場などの地合が一変するとは考えづらいことである。もちろんいったんは好感し、パウエルプットなる表現も飛び交うかもしれないが、そもそも米利上げが米国株式市場の調整等の主因であったわけではない。米中間を巡る貿易戦争などが解決に向かわない限り、さらに世界的な景気減速観測が後退しない限り、地合が大きくかわるとは思えない。金融政策だけが金融市場の決定要因ではない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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