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キャッシュレス化に潜む災害時リスク、韓国の事例

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Shutterstock/アフロ)

 11月24日に韓国のソウル中心部で通信最大手KTの通信ケーブルが焼ける火事があり、3日間にわたって一部地域で同社の携帯電話やインターネットが使えなくなり、カード決済もできなくなった。キャッシュレス決済の比率が9割に達する韓国では現金を持ち歩かない人も多く、混乱が広がった(26日付朝日新聞)。

 韓国では買い物の際、現金ではなく、クレジットカードや日本のデビットカードに似た「チェックカード」を使って決済するのが一般的とされている。「チェックカード」とはいわゆる銀行ATM用のカードで、日本ではこの銀行カードで現金の出し入れ、振込みなどを行なうが、韓国ではこのカードそのもので支払いができる。

 キャッシュレス化については、国によって何が主体となっているのか異なっている。中国などではQRコードを利用したスマホ決済、韓国ではチェックカード、そして香港ではオクトパスカードなどとなっている。

 方式は異なっても、いずれのキャッシュレス決済においても電子取引となっていることで災害時には弱い。今回の韓国の事例でも、それを浮き彫りにしたといえる。韓国のように9割近くまでキャッシュレス化が進んでしまうと、通信ができなくなったり、停電などによってキャッシュレス決済ができなくなってしまう。これは消費者だけでなく、店舗側にも大きな影響を与えかねない。

 経産省は日本のキャッシュレス化について80%あたりまで引き上げたいとしているようだが、そこまで引き上げる必要があるのかも再考する必要もあるのではなかろうか。給与振り込みやカードの引き落としなども電子決済とすれば、日本のキャッシュレス化は進んでいるとの見方もある。それでも現金利用が多いことも確かである。それには現金の利便性だけでなく、「もしも」の時の現金利用も意識されているのではなかろうか。

 日本では地震などの自然災害が多く、停電などが続くと電子決済はできなくなる。それに対して現金の決済は災害時でも可能となる。しかし、レジが使えなくなるなど現金も利用できないケースもあり、災害時の停電なども想定した対応が求められる。

 現金利用を抑えることで、ATMの設置やメンテナンス費用、現金の保管や移動時のセキュリティ費用などを削減することも必要ながらも、ある程度の現金決済は残しておくことも必要なのではなかろうか。「もしも」の際にどうするか。そちらへの対応を考慮した上での、キャッシュレス化を考えることも必要と思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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