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消費税率10%への引き上げとその対策はそれで良いのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 安倍首相は15日の臨時閣議で来年10月に予定している消費税率10%への引き上げに備えた対策を早急に講じるよう指示する。増税による景気減速懸念がくすぶる中、中小企業対策など環境整備に万全を期すことで、経済の腰折れを最小限に抑えたい考えだ(15日付け産経新聞)。

 安倍首相は来年10月の消費税率引き上げについて「リーマン・ショック級の出来事がない限り、予定通り行う」と述べていた。これまでに二回ほど10%への消費税の引き上げは延期されていた。

 2014年11月に安倍首相は2015年10月に予定していた消費税率10%への引き上げの延期を決定した。2008年9月のリーマン・ショックによる世界的な金融経済危機時と同様の事態となったとして、2017年4月まで1年半延期したのである。

 ちなみに2014年11月にリーマン・ショックどころか、金融危機が発生した気配はない。

 2016年10月には消費税率10%への引き上げを2017年4月から2019年10月に「再延期」する税制改正関連法が成立した。安倍首相は「新興国や途上国の経済が落ち込んで、世界経済が大きなリスクに直面しており、こうした認識を伊勢志摩サミットで世界のリーダーたちと共有した」としていた。

 このときもリーマン・ショックどころか、金融危機が発生した気配はない。延期理由がリーマン・ショック並みであるならば、よほど大きな危機を想定していたと思われるが、そんな気配はまったくなかった。

 さすがに今回もリーマン並みと言ってしまった手前もあってか、三度目の正直で消費税引き上げを行うようである。しかし、そのための経済対策も打つことで、景気に対する配慮も行うようである。

 その増税対策のひとつの柱は、中小小売店でクレジットカードなどキャッシュレス決済で買い物をした消費者を対象に、購入額の2%分をポイント還元する制度が有力だとか。経済産業省が策定した「キャッシュレス・ビジョン」も意識したものであろうが、果たしてこれで日本でのキャッシュレス化が進むのであろうか。

 酒類と外食を除く飲食料品と新聞などの税率を8%に据え置く軽減税率も対策の柱となる。軽減税率の対象となるものに妥当性はあるのか。また、軽減税率などによって消費税の計算がややっこしくなる点などにも注意が必要となる。

 財政健全化のための消費増税であったはずが、建前上は増税を行うとしても、結果として財政健全化に本当に寄与するのか。国民としても増税はしてほしくはないことは確かである。しかし、日本の財政悪化が将来の不安を感じさせていることも事実である。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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