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キャッシュレス化を普及させるために必要なのは政府主導での決済アプリの単一化か

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 以前に日本の現金利用率の高さには何かしらの原因があるため、電子マネーへの移行を促進する必要があるとの主張があった。現金保有の高さの原因として、マネーローンダリングや脱税に使われているためとの見方があった。

 マネーローンダリングや脱税に全く使われていないとは確かに断言はできない。持ち主不明の多額の現金が見つかることもある。ただし、これは年配者がその存在そのものを忘れていたというケースもあるとみられ、一概に脱税のための現金とは言えない。

 そもそも日本の現金保有率の高さの原因としては、その使い勝手の良さが挙げられる。治安が良いこと、偽札が少ないこと、日本全国どこでも利用できることなど利便性の良いところが、日本人による現金利用の高さの背景にある。

 ただし、小額利用については今後、中国などのようにQRコード決済を使った電子決済が普及してくる可能性がある。日本のキャッシュレス化を推進するために経済産業省はQRコードを使った決済の規格統一に乗り出すとされている。

 ただし、すでにヤフーや楽天やOrigamiなどはQRコード決済サービスを展開し、セブンイレブンも独自のスマホ決済を導入。NTTドコモ、KDDI、JCB、さらにメガバンクなどもQRコード決済サービスを進める計画とされており、すでに様々な形式のサービスが登場しつつある。

 このままだと利用者にとっては、各種のQRコード決済のアプリを使い分けなくてはならず、財布のなかのポイントカードのごとく、スマートフォンにアプリが溢れてしまうような事態にもなりかねない。

 中国では「Alipay」、「WeChat Pay」が、スウェーデンでは大手行などが共同で開発した単一のモバイル決済アプリ「スウィッシュ」が、キャッシュレス化が進行する要因となっていた。台湾でも台湾政府が主導して生まれた「台湾Pay」が昨年スタートしている。台湾Payの誕生の背景には、国内のデータが海外アプリの普及によって流出されるのを防ぐことも目的とされている。

 日本でこのまま多種多様のQRコードを使ったモバイル決済アプリが存在するとなれば、それはむしろモバイル決済の普及を妨げる可能性もあるのではなかろうか。とはいえ、ここまで多種多様のアプリがすでに生まれていることもあり、経済産業省が率先してQRコードの決済方式だけでなく、アプリの単一化を進めるのも難しいのかもしれない。ある程度は市場原理に委ねる必要もある。

 それでも日本でキャッシュレス化を普及させるためには、スウェーデンや台湾のように、国内データの流出を防ぐためにも、ある程度政府主導の上で、ひとつのアプリに集約させることが必要になるのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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