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株式市場を動揺させるトランプ・トラップ、投資制限を巡っては米政権内での対立も

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙が24日、トランプ米政権が中国の知的財産侵害への対策を強化するため、中国資本が25%以上の企業を対象に対米投資を制限する検討に入ったと報じた。ITなど先端技術の流出も規制すると伝えた(日経新聞電子版)。

 これを受けて24日の東京株式市場では日経平均が下げ幅を拡大させ、早朝に110円台にあったドル円は109円台半ばまで下落した。25日の米国株式市場では、IT技術の流出規制の影響を受けやすい半導体株などを主体に売られ、ダウ平均は一時500ドル近くまで下落した。

 ところが、通商政策を担当し対中強硬派で知られるナバロ大統領補佐官が米CNBCに出演し「対米投資の制限は今のところ検討していない」と述べたことから、ダウ平均はやや下げ幅を縮小させて328ドル安、ナスダックは160ポイントの下落となった。

 ドル円はナバロ大統領補佐官の発言を受けて、109円30銭台あたりから、一時110円台に切り返した。

 トランプ政権が中国製品への追加関税の発動を表明したのに対し、中国も米国製品に対し同じ規模、同じ強さの追加関税措置を出すと応じ、これにより、米中の貿易摩擦が激化するのではとの懸念が強まり、市場は動揺した。それが少し落ち着いてきたかに思えたタイミングで、トランプ大統領はあらたなトラップを仕掛けてきたかに思われる。

 ナバロ大統領補佐官は25日に「中国の問題に関してムニューシン財務長官が29日に大統領に報告する」とも述べていた。ナバロ氏は「報告は中国以外の国とは全く関係ない」とも語った。一方、ムニューシン氏は投資制限について「中国だけを特定したものではなく、われわれの技術を盗もうとする全ての国が対象となる」とツイッターに投稿した。米政権内では対中通商政策をめぐり路線対立があるともされており(共同)、今後もあらためてこの問題が蒸し返される可能性がある。

 米国株式市場でナスダックはじりじりと上昇して、20日には再び過去最高値を更新していた。しかし、ここにきての下落により、チャート上は上昇トレンドが崩れつつある。ダウ平均も24000ドルを割り込むようなことになると、下落トレンド入りする懸念がある。

 トランプ政権が株式市場を全く無視しているわけではないと思うが、いまの市場はトランプリスクに怯えている。今度はどのようなトラップを仕掛けてくるのか。果たしてそれは自国経済にとって本当にプラスになるものなのかどうか。米国景気の拡大基調がこのまま崩れるようなことになると、自ら仕掛けたトラップに米国自体がはまってしまうというリスクも警戒する必要がありそうである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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