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マイナス金利政策の修正の可能性

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 日銀の黒田総裁は昨年12月22日の金融政策決定会合後の記者会見において、下記のような発言をしていた。

 「特にリバーサル・レートという学術的な分析を採り上げたからといって、昨年9月以来の長短金利操作付き量的・質的金融緩和について見直しが必要だとか、変更が必要だということは全く意味していません。」

 11月13日のスイス・チューリッヒ大学での講演でも黒田総裁が「リバーサル・レート」について指摘したことで、金融界からの批判も出ていたマイナス金利政策について、日銀はそれをいずれ調整するのではとの思惑が出ていた。しかし、その可能性はないと総裁はあらためて明言した。

 しかし、マイナス金利政策は、どのような経路によって物価や景気に働きかけているのかは不透明であり、金融機関の収益を圧迫するマイナス金利政策は、見直す必要があるのではなかろうかと私は思っている。株式市場や為替市場が動揺するのではとの懸念はあるが、現実には金融株などには好材料となり、株価にプラスに働く可能性すらありうる。

 10月30、31日に開催された日銀金融政策決定会合議事要旨でも下記のような発言が複数の委員からあった

 「複数の委員は「物価安定の目標」の達成を急ぐあまり、極端な金融緩和策をとると、金融不均衡の蓄積や金融仲介機能の低下といった副作用が生じ、結果的に十分な政策効果が得られない可能性があると述べた。」

 また、日銀の宮野谷理事はロイターとのインタビューで、下記のような発言をしていた。

 「ただ、債券キャピタル・ゲインを得られる余地はかなり減少しており、信用コストの一段の低下も期待し難い。そうした中で資金利ざや縮小のデメリットが大きくなり、金融機関の不満が強まっている」

 日銀がすぐにでもマイナス金利政策の調整に動く兆しは、いまのところはない。しかし、今後さらに物価が上昇してくる可能性もある。11月のコアCPIは前年比で0.9%増となり、1%も見えてきた。原油価格も上昇してきている。もちろん2%の物価目標達成には距離はあるが、物価に応じたイールドカーブ形成もいずれ必要となるのではなかろうか。その際にマイナス金利政策から脱すると、むしろ日本の景気回復やデフレ脱却が意識され、その上金融機関の収益の改善も見込めるとなれば、株式市場にとっても悪材料ではなく好材料視される可能性もある。正常化に向けた出口政策は難しくても、景気や物価の状態をみながらの金融政策の微修正ならば検討しても良いのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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