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中国のスマホ決済の急速な普及と日本の実情

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 11月28日付けの日経新聞によると中国で「生活インフラ」として定着したスマートフォン(スマホ)決済が2年で6倍に増え、年間660兆円にも達したそうである。上海の一角に密集する八百屋や雑貨店など20店に聞くと、電子決済を使えないのは婦人靴店1店のみだとか。中国のスマホ決済は「支付宝(アリペイ)」と「ウィーチャットペイ」の2強に延べ12億人が登録しているそうである。

 北京や上海で財布から現金を出して払っている人といえば、老人か外国人旅行者ばかりだとの指摘もあり、中国は大都市だけでなく内陸部でも交通や食事など、どんな支払いでも決済アプリで簡単にできてしまうようである。

 なぜ中国ではこのように急速にキャッシュレス化が進んでいたのか。それに対して日本ではキャッシュレス化が遅れているようにみえるのか。

 それは日本では現金が全国で流通できる社会基盤が充実していたことで、現金での決済の利用が便利であったためといえる。これに対して中国では日本よりも偽札が多く、また治安も日本に比べて良くない面も指摘され、現金の利用が日本に比べてリスクが高いことがあった。そこに急速なスマートフォンの普及があり、アプリでの簡易決済が可能となったことで現金を持ち歩くリスクもなく、気軽に使える決済方式が急速に普及したものと思われる。

 インフラ整備の遅れが、むしろ新技術の普及を広めていった事例のひとつとも言えるのではなかろうか。それでは今後、日本でもスマートフォン決済、モバイル決済が普及する可能性はあるのであろうか。

 キャッシュレス化が進んでいる国としてはスウェーデンもある。スウェーデンでは複数の有力銀行が共同で開発したスウィッシュ(Swish)と呼ばれるモバイル決済が広く使われている。

 日本では現金の決済が便利なため、中国やスウェーデンのように一気にモバイル決済が普及することは現状考えづらい。しかしSuicaなどJRのカードやnanacoなどのコンビニのカードを使うことで小銭を持ち歩くことも少なくなった人も多い。少額貨幣についてはキャッシュレス化は進んでいる。

 スマートフォンの普及も中国ほどではないが、日本でも進みつつあり、今後、国内で使いやすいアプリが出てくれば一気に普及する可能性はある。国内大手銀行なども三菱UFJがMUFGコインを発表するなど、銀行口座のお金をスマートフォンで簡単に支払えるような仕組みが検討されている。銀行別のアプリとかではむしろ使いづらい面もあるが、スウェーデンのように複数の有力銀行が共同開発となれば使い勝手も良くなる可能性もあるのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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