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株高なのに円高の理由

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 11月22日の東京株式市場は前日の米国株式市場で久しぶりに主要3指数が史上最高値を更新したことなどから、買いが先行し日経平均は一時22600円台後半まで上昇した。ここにきて、利益確定売りなどに押されていた東京株式市場であったが、米株の回復なども手伝い日経平均は再び23000円も視野に入ってきそうである。

 これに対して外為市場ではドル円の上値が重くなっている。上値が重いというより、ドル円はダウントレンド入りしているようにも思われる。ドル円は11月6日に114円70銭台まで上昇していたが、そこから下落基調となり、11月17日には一時111円台を付けていた。22日のドル円も戻りが鈍く、112円台前半での推移となっていた。

 日経平均とドル円が常にリンクしているわけではないが、リーマン・ショックやギリシャ・ショックに代表される世界的な金融経済危機が生じた際には、リスク回避の動きから日経平均は下落し、ドル円も下落(円高)となっていた。ところがこの危機の後退時に登場したアベノミクスをきっかけに、リスク回避の反動が一気に生じ、今度は日経平均は急反発し、ドル円も上昇(円安)となった。

 その後も比較的、日経平均とドル円はリスクオンやリスクオフに絡んだ材料に同様の反応を示していた。しかし、ここにきてあらためて日経平均とドル円の動きに連動性がみられなくなっている。

 このひとつの要因として米長期金利の動きが影響しているように思われる。米国の10年債利回りは10月26日に2.46%あたりまで上昇後、上値が重くなり、ここにきて2.3%台主体での推移となっている。12月のFOMCでの利上げの可能性は市場でも意識されており、それを織り込んでの動きでもある。

 この米長期金利がそれほど上昇していない背景としては、FRBの正常化が慎重に進められている面もあろうが、米国の物価がさほど上昇していない面が大きい。原油先物などをみるとWTIは50ドル台に乗せるなどしているものの、10月の米消費者物価のコア指数は前年比1.8%増となっている。FRBの物価目標はPCEデフレータであるが、このコア指数も2012年半ばあたりからFRBの目標である2%を下回り続けている。

 つまりは米国の物価が思うほど前年比で上昇しておらず、その結果、米長期金利の上昇が抑制され、それによってドル円の上値が抑えられ、株式市場の動きと乖離を見せているように思われるのである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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