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衆院解散総選挙を受けての国債の行方

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 安倍首相は公明党の山口代表に対し、今月28日に召集する方針の臨時国会で、衆議院の解散・総選挙に踏み切ることを排除しないという考えを伝えていたことが明らかになり、衆議院は、臨時国会の冒頭にも解散される可能性が強まった。

 解散の大義名分とかはさておき、なかなか絶妙なタイミングで解散に打って出る格好となった。11月初めに米国のトランプ大統領の日本訪問が予定されていることもあり、10月10日公示、22日投票の日程が想定されるようだが、野党に準備期間を与えず、安倍政権の支持率が回復してきたところだけに絶妙のタイミングといえる。

 勝利の行方に関しては、選挙は水物と言われるだけにどうなるかは蓋を開けるまでわからない。しかし、総選挙の勝敗ラインを自民党で過半数あたりとすれば、現時点では到達可能とみられ、そうなれば来年9月の自民党総裁選での3選の可能性を強めることになる。

 今度の衆院選で安倍首相は「全世代型の社会保障制度改革」を主要政策として訴える意向を固めたとも伝えられ、消費税率を10%に引き上げる際に使途を組み替え、教育財源を拡充する案を打ち出すという。

 すでに基礎的財政収支(プライマリーバランス)を2020年度までに黒字化するという方針は、ほぼ達成不可能の状況となっている。財政再建に向けた姿勢は維持しているとの格好ではあるが、安倍政権はあまり積極的ではなく、財政政策などによって経済を活性化させることで税収を増加させ、それが結果として財政健全化に繋がるとの考えのようである。しかし、これまでの税収増はほぼ景気対策に使われていたように思われる。

 それでも日銀が国債を大量に購入しており、長期金利はとりあえずコントロールされている。欧米の長期金利が再び上昇しつつあり、解散総選挙そのものは政治の安定に繋がるとの思惑も手伝い、東京株式市場やドル円は上昇し、国債は少し売られた。それでも国債への信認が揺るいでいるわけではないため、今後の日本の長期金利の上昇もわずかなものに止まるとみられる。

 解散総選挙の結果、政権交代が起きたり、首相の交代があれば、国債を取り巻く環境が一変する可能性はある。しかし、それがない限りは10年国債利回りのゼロ%近辺での狭いレンジ内での動きが継続することになろう。日銀も可能な限り現在の政策を続けることが予想される。日銀の黒田総裁が再任される可能性も強まるかもしれない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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