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市場はFRBのイエレン議長の花道も意識か

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

7月11日に半期に一度行われる米下院金融委員会の公聴会で、FRBのイエレン議長は「FOMCは向こう数か月、インフレの動向を注視していく」と指摘した。ただその上で、金利水準が引き続き雇用増加や所得の伸びを支え、それにより消費が後押しされるというのが基本的な見通しだとも説明した。

政策金利については、経済における需要と供給の適度なバランスを保つ水準にする上で、「今後はそれほど大きく引き上げる必要はない」と指摘した。この発言が意識されてか、11日の米国市場では今後の利上げペースはより緩やかなものとなるとして、米債は買われ、ダウ平均も上昇した。

しかし、11日のイエレン議長の発言はこれまでの発言内容に即したものとなっており、軌道修正をしたものではない。ただし、前日にFRBのブレイナード理事が、バランスシート縮小について早期に進めることを支持した上で、追加利上げについては慎重な姿勢を示していたこともあり、今後の利上げは慎重になるのではとの期待感も出ていたのかもしれない。

ここ数か月の物価指標が著しく低水準にとどまっていることは、FRBも確認しているものの、それは一時的要因が物価昇を抑制しているとの認識に変わりはない。それでも、もし一時的な要因でなければ、今後のFRBの利上げペースは予定通りに行かないリスクは確かに存在する。

しかし、今回の議長発言をみても、FRBの金融政策の正常化スケジュールを変更するようなものではないことも確かである。ただ、ここにひとつ不確定要素が存在している。

イエレン議長は今回の公聴会で、今回が最後の議会証言かと問われ「来年2月に任期が切れるので、そうかもしれない」と答えた。2期目の続投に強い意欲は示さず「現在の任期を全うする」と繰り返した(日経新聞電子版)。

FRB議長の任期は4年だが、前任のバーナンキ氏やグリーンスパン氏は2期8年以上議長を務めた。もちろんこれは任期満了時の政権が再指名したことで長期体制となったわけだが、イエレン議長をトランプ政権が再任する可能性はあまり高くはないように思われる。また、イエレン氏は6月末に一時入院するなど健康面も問題視される可能性もある。

FRBの正常化に向けた歩みは当初かなり慎重となっていた。これは非伝統的手段からの出口戦略が特に市場と対話を進めながら行うにはかなりの慎重さが必要になったためとみられる。正常化の動きがいったん軌道に乗ればそのピッチを早めてもしかるべきながら、一昨年と昨年の利上げが1回、今年はそれが3回の予定、来年と再来年も3回の予定と予想以上のピッチの見込みとなっている。現在の物価水準からみても、長期の中立金利見通しである3%に達成させる必要性があるのかという疑問も残る。

もし仮にイエレン議長は自ら再任の可能性は意識しておらず、異常ともいえた緩和政策からの正常化への道筋をつけることで自らの花道にしたいと考えているのであれば、今年3回の利上げペースとバランスシート縮小への着手は納得できるような気がする。ただし、そのあとを後任に託すとなれば、2018年以降の利上げに関しては不透明感も出てくることになる。市場はそのあたりも意識し始めているということなのであろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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