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日米の株価上昇の背景

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

6月2日の東京株式市場では、心理的な壁とされていた日経平均の2万円をあっさりと抜けてきた。これまで付けそうで付けなかった2万円ではあったが、予想以上に強い米国株式市場の動向などを背景にあっさりと抜けてきた格好となった。

1日の米国株式市場では、本来あまり材料視はされないはずのADP雇用レポートが材料視されて、ダウ平均は3月1日以来の過去最高値更新となった。ADP雇用レポートで非農業雇用者数が市場予想を大幅に上回り、2日に発表される5月の米雇用統計でも非農業雇用者数(NFP)が、予想(+18.5万人程度)より上振れるのではとの見方が強まったためのようである。

しかしこのADP雇用レポートはさほど雇用統計とリンクしていないことでも知られており、通常であればあくまで雇用統計をみる上での参考数字の位置づけのはずで、ダウ平均の過去最高値をフォローするような経済データではなかったはずである。現実に2日に発表された5月の米雇用統計では非農業雇用者数は前月比13.8万人増と予想の18.5万人を下回っていた。

ところが2日の米国株式市場はこの数字を確認してもダウは続伸となり連日で最高値更新となった。FRBの利上げペースが緩やかになるとの見方もあるようだが、それでは強かったADP統計に反応したことに矛盾する。むしろ、FRBによる6月と9月の利上げ、年内の買い入れた資産の償還分の乗り換え縮小は織り込んでしまっているのではなかろうか。

この米国株式市場の強さの背景には、別の要因が絡んでいるように思われる。1日の米国株式市場ではナスダックも過去最高値を更新したが、ナスダックは5月26日にも過去最高値を更新するなどしていた。今回はダウ平均の高値更新が注目されたものの、米国株式市場はアップルやアマゾンなどハイテク株への買いがここにきての上昇の原動力となっている。2日もアマゾンやフェイスブックなどが最高値を更新した。

トランプ政権誕生によってハイテク産業に対する懸念も出ていたが、結局、米国経済を牽引しているのはハイテク産業となった。そのハイテク産業の株価上昇の背景にはAIなどの技術への期待などがある。AI技術によって雇用が縮小するとの懸念も出ていたが、ここにきての米国雇用の堅調さを見る限りは、むしろハイテク産業が米国の雇用を拡大させているとの見方も可能となる。ハイテク技術があらたな産業を生み出す可能性なども期待されていよう。

もうひとつ注意すべきは米長期金利の動向となる。米株やドルの上昇にも関わらず、2日の米長期金利は2.16%と低下していた。米債も年3回の利上げの可能性と年内のバランスシート縮小開始も織り込み済みとみられるものの、その後を含めて正常化に向けたFRBの動きはかなり慎重になるであろうとの期待もある。

足元の物価をみてみると4月のPCEのデフレーターが前年同月比1.7%上昇とFRBの目標である2%には届いていない。インフレの兆候はなく、これが米長期金利の上昇を抑えている。原油価格も減産合意によって、なんとかWTIは50ドル近辺にいるが、こちらの上値は重く上昇圧力は強まっていない。この物価の抑制により、FRBもより慎重に正常化に向けた調整を行うであろうとの期待も米長期金利を抑えている。長期金利が低位で安定していることも、株式市場にはプラス要因として働いているとみられる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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