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日銀がいずれ国債買入を減額することが必要となる理由

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

23日の山梨での木内登英審議委員の講演で、「国債買入れの安定性・持続性強化に向けた提案」がされていた。木内審議委員は毎回の金融政策決定会合において。金融市場調節の操作目標を資産買入れ額としたうえで、資産買入れ方針に関して、長期国債保有残高が年間約45兆円に相当するペースで増加するよう買入れを行うなどを内容とする議案を提出している。その理由に絡めて提案の説明があった。

「日本銀行は、量的・質的金融緩和のもとで大規模な国債買入れを続けており、日本銀行の国債保有比率は既に国債発行残高の4割程度に達しています。一方、国内金融機関は、様々な理由から、国債を保有する必要があります。例えば、銀行は、担保需要や金融規制対応から、一定規模の国債を保有する必要があるほか、年金は、適切なポートフォリオの構築という観点から、運用資産の一定比率は安全性の高い国債で保有する必要があります。また、生保は、生命保険商品という非常に長期の負債を持つことから、ALM(資産・負債の総合管理)や会計要件充足のため、超長期国債を中心に、相当額の国債を保有する必要があります。」

国債とは国の借金であるとともに、金融市場にとってはなくてはならない金融商品である。安全資産であり満期まで持てば元本が返ってくる。株式や為替の影響を受ける外債投資ではどうしても元本を割り込むリスクが存在する。このため国債には安全資産として、もしくは日銀担保などとしての一定のニーズが存在している。

「日本銀行が発行済みの国債を全て保有することができる訳ではなく、現在の買入れペースを続けていけば、国債買入れが困難な状態に近づくことは必至であると私は考えています。」

国債の残存は1000兆円もあるので、数字上からはまだ600兆円も日銀は買うことができる。足らなければ国がバンバン国債を発行すれば問題ないとの意見もある。しかし、それは金融機関の保有している国債を引きはがすこととなる。また、むやみやたらに国債を発行してしまうと国債の信用力が低下しかねない。このため、日銀がこのまま大量の国債買入を続けるには無理があると私も思う。

「また、国債買入れの困難度が増すにつれて、先行きの金融政策に対する不確実性の高まりや国債市場の流動性の過度の低下などから、金利が大きく変動しやすくなり、金融市場や実体経済に深刻な影響を及ぼす惧れがあります。」

世界的な危機が存在しリスクが高まり、国債へのニーズが強まり、金利は低い状態が続く限りは、量と金利の両方を操作できても、その環境が変われば無理が出てくることになる。海外要因や物価要因などから金利に上昇圧力が加わった際などには、量と金利の両方を追い求める日銀の現在の政策の矛盾が浮き出る。

木内委員の主張する45兆円という数字で良いのかどうかはわからないが、この数字そのものを取り除いてしまった方が良いと思う。しかし、こういった提案は日銀の審議委員のなかでも木内委員からしか出されていない。ほかの委員も現在の規模で国債買入が続けることがいずれ困難になると理解はしていると思うが、それにブレーキが掛けられないこともいまの日銀の現状なのである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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