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トランプ政権登場による日銀の金融政策への影響

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

トランプ新米大統領の政策が如何なるものなのかは、いまだはっきりしていない面はあるが、選挙期間中からスローガンとしていた「アメリカ・ファースト」と呼ぶ自国優先主義、反グローバリゼーションを強く打ち出してくることが予想される。トランプ大統領は早速、TPPから「永久に離脱する」とした大統領令に署名した。

トランプ氏は大統領選後初の会見で貿易赤字の相手国として、中国とメキシコとともに日本の名前を挙げていた。これに対して麻生財務相は13日の閣議後会見で「日本やメキシコよりドイツの方が(米国の赤字は)上ではないか。なぜドイツが出ていないのか」と疑問を呈した。

日本政府は2月上旬の日米首脳会談開催を目指し、安倍首相の訪米に麻生副総理兼財務相が同行する方向で調整を進めている。麻生氏の同行は米側からの要請によるものとされる。

果たして麻生氏の同行を米国が何故要請したのかはわからない。あの独特のスタイル(服装)をトランプ氏が気に入ったからというわけではないと思うが、貿易赤字の相手国として日本が意識されている可能性は十分ありうる。

財務省が発表した2016年通年の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は4兆741億円の黒字だった。貿易黒字は東日本大震災前の2010年以来6年ぶり。対米黒字額は6兆8347億円の黒字となり、2年ぶりに減少したものの、巨額の黒字であることに変わりはない。

次期財務長官に指名され承認待ちのスティーブ・ムニューチン氏は、過度に強いドルは経済に短期的にマイナスの影響を与える可能性があると発言するなど、トランプ政権はドル安政策は取らないまでもドル高に対して警戒していることも確かであろう。

そうなると日本が円安政策を進めるようなことは今後、かなり困難となりかねない。米国がドル安誘導をすることはないとしても、日本の円安誘導と取られかねない政策もしづらくなる。

ドル円は日米金利差だけで動くものではないが、ここにきて日米の長期金利のスプレッドに連動するような動きとなっている。トランプ政権は国内雇用を改善させようとしており、米国の物価上昇もあり、FRBは年内複数回の利上げの可能性がある。米長期金利は上昇基調にいったん調整が入ったものの、FRBの利上げが可能となれば、いずれ3%に向けて上昇していくとみられる。

そんななか、果たして日銀は長短金利操作付き量的・質的緩和政策で、特に長期金利をゼロ%近辺で抑え続けられるのか。

25日の日銀の国債買入では、一部に期待があった超長期債の買入増額は見送られた。さらに中期の買入も予想されたが、それが見送られたことで、債券先物は久しぶりに大きく売られる場面があった。40年債利回りは1%近くまで利回りが上昇した。

日銀にとってトランプ政権の登場は、結果として出口政策を取らざるを得ない状況に向かわせることになるのかもしれない。消費者物価もプラスに改善することも予想され、外部環境もそれを促すのではなかろうか。追加緩和手段に乏しく、今後の国債買入についても限界が意識されるなか、長短金利操作付き量的・質的緩和政策を取らざるを得なくなった日銀にとっても、これはむしろ好都合かもしれない。問題はそれをどのようにしてスムーズに進められるのかとなり、市場参加者との対話も重視されることになる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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