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フィンテックで我々の生活の何が変わるのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:アフロ)

フィンテック(Fintec)とは、金融(Finance)と技術(Technogy)を組み合わせた米国発の造語である。かなり漠然としたものであり、一過性のブームかともみられていたが、日銀は今年4月に決済機構局内に「FinTechセンター」を設立しており、かなり真剣に取り組んでいるようである。日銀のFinTechセンターは、伝統的な金融業にとどまらない幅広い企業や学界などとの間で、建設的かつイントラクティブなコミュニケーションを取るための媒介的な組織との位置づけのようである。

もともと金融とコンピュータは相性が良い事で知られている。我が国初の商用コンピュータを導入したのが東京証券取引所であり、それに応じて証券会社などもシステム化を進めた。銀行なども急速にシステム化を進め、ネットワークとしては1973年4月に全国銀行データ通信システムが発足し、日銀も金融の基幹インフラとも言うべき日銀ネットを1988年に稼働している。

このような大型で費用も掛かるシステムに対して、我々個人の職場や生活のなかにもコンピュータが入ってきた。当初のパソコンはゲーム機のようなものであったのが、仕事の効率化と大型システムの端末として普及し、特にマイクロソフトのOSとインテルのチップが革命的な普及をもたらせた。職場や家庭のデスクにはいつのまにかパソコンが置かれるのが普通の時代となった。

個人保有のパソコンの普及もあったが、携帯電話の普及のほうが早かったように思う。そこに登場したのがインターネットと接続された携帯電話、つまりスマートフォンの登場となる。日本のiモードは残念ながらガラパゴス化してしまったが、デザイン性やトップのカリスマ性も手伝って登場したiPhoneが革命を起こした。今回のフィンテックにはこのスマートフォンの普及も影響した面もあろう。スマートフォンを利用したペイパルなどの決済機能などがそれにあたる。

さらに資産運用・資産管理というノウハウの面での利用なども指摘されている。家計簿のシステムやAIを利用した資産運用などである。ただし、これはそれほど画期的なものとは言えないように思われる。資産運用はもともと資産家側の条件等によって機械的に行う側面もある。また相場の先行きを予測することについては、職人芸のような面があるとともに、AIを使っても的確に予測するのは困難である。仮にすごいAIを開発して常勝が可能となれば、皆そのシステムに乗っかることになる。すると負ける人がいないので勝ち分もなくなり、それはつまりそんな儲かるシステムはできないことになる。

大型コンピュータの登場が世界を変えた。パソコンも同様であり、スマホも同様である。そこにソフトも絡み、基幹ソフトだけでなく、ワープロ、表計算などのソフトが仕事を効率化させた。検索ソフトが波及してグーグルなどが生まれ、FACEBOOKやツイッター、さらには小売りのシステムを変えかねないアマゾンなども出てきた。果たしてフィンテックと呼ばれるものから、このような企業が出てくることがあるのか。仮想通貨などもフィンテックの一部かもしれないが、その代表格ともいうべきビットコインには肝心の信頼性の問題が存在する。ブロックチェーンを使っての仮想通貨は国内大手銀行もはじめるようだが、こちらもどれだけ波及しうるか未知数である。

個人的にはフィンテックはWeb2.0のような漠然としたものではないかとみていて、距離を置いていた。その見方にあまり変化はないものの、海外送金などについてはフィンテックの技術で今後様変わりしてくることも予想される。我々にとって大きな変化とはならずとも、意外なところで便利さが増したり、余計な負担を軽減させてくれる技術となるのかもしれない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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