ドイツや英国の国債がここにきて売られている理由
ドイツの10年債利回りは低下を続け、9月28日にマイナス0.15%まで低下した。ここにいたるまでの過程ではいくつもの要因が絡んでいたが、最後のひと押しとなっていたのが、ドイツ銀行の問題となった。米司法省から140億ドルの和解金支払いを要求されているドイツ銀に対し、ドイツ政府は支援の可能性を否定したと報じられたことなどが嫌気されてリスク回避の動きからドイツの国債の利回りに低下圧力が掛かった。
そもそもドイツの10年債利回りがマイナスとなったのは、ECBによるマイナス金利政策を含めた積極的な金融緩和策による影響が大きかったといえる。その後のドイツの10年債利回りはじりじりと上昇し、プラスに転じている(国債価格は下落している)。
英国の10年債利回りは8月12日に0.54%に低下した。こちらは英国のEU離脱によるリスク回避の動きとともに、8月4日にイングランド銀行が利下げや量的緩和を含む包括緩和を決定したためである。しかし、その後の英10年債利回りも上昇し1%台を回復している。
ドイツと英国の10年債利回りが、これでボトム(底値)をつけたかどうかはまだわからないものの、いずれもチャート上でみるとトレンドラインを上抜けてきたように思われる。欧州の国債には明らかな地合の変化も感じとれる。もちろんこの背景としては米10年債利回りが7月8日の1.35%近辺をボトムにじりじりと利回りが上昇してきたことも背景にあろうが、個別の要因も存在する。
これにはそれぞれの利回りを押しつけていたいくつかの要因が後退してきたことも挙げられよう。ドイツ銀行に対しては米司法省への支払額が当初の140億ドルから、大幅に減額された54億ドルで和解する方向で合意に近付いているとの報道をきっかけにドイツ銀行に対する不安が後退しつつある。
そして英国のEU離脱の影響についても、当初懸念されていたような金融市場を揺るがすようなショックは起きず、こちらも不安感が後退してきた。新たに首相となったメイ氏はEU離脱プロセスについて、単一市場に可能な限り最大限のアクセス維持を模索する意向を表明したとされる。これが実現可能なのかどうは不透明ながら、英国のEU離脱がそれほど懸念材料視されなくなった。
それだけではない。ECBの金融政策に変化が生じている。8月にイングランド銀行が包括緩和を決定してもECBは動かなかった。正確には動けなかったとも言うべきか。すでにマイナス金利の深入りの可能性はなくなっており、国債の買い入れ期間の延長すらもできなくなりつつある状況が見えてきた。ユーロ圏の複数の中央銀行当局者から、量的緩和の期間終了前に段階的に買い入れを減らすというテーパリングの可能性すら指摘されていた。
日銀の9月に決定した「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」政策についても、緩和の姿勢を維持しながらも大胆な金融緩和の調整を余儀なくされたと見る事ができる。イングランド銀行も8月に追加緩和をせざるを得なかったのかもしれないが、これでむしろさらなる緩和余地を自らなくしてしまった格好となっている。
これらから言えることは日欧の中央銀行はこれ以上の大胆な金融緩和に踏み込む余地がほとんどなくなっているということである。日銀はまだまだやれると豪語しているが、これは現実的ではない。つまりこれから大きなショックがくるとなれば、それに対抗しうる手段が限られてしまっているともいえる。
しかし、そのようなショックがこないとなれば、異常時の政策からの店じまいを考える必要が出てくる。ここにきてのドイツや英国の10年債利回りの動きは、そのような予兆も感じさせるものとなっている。