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日銀の総括的な検証と可能性のある追加緩和の選択肢

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

日銀の黒田総裁は5日のきさらぎ会の講演で次のような発言をしていた。

「今の枠組みの中だけで考えても、「量」・「質」・「金利」の各次元での拡大は、まだ十分可能だと考えていますし、それ以外のアイデアも議論の俎上からはずすべきではありません。」

市場ではこれを受けて追加緩和の可能性も意識していたようだが、それでは総括的な検証を受けたあとの日銀の追加緩和手段としてはどのような選択肢があるであろうか。

量の側面からは単純に買い入れる国債の量を増やす手段がある。ただし、国債買入がいずれ困難になる可能性を日銀が意識しているとすれば、それは難しい。さらにイールドカーブの形状も意識するとなれば、国債の量については現状維持か、ややターゲットを拡げることでいかにも量を増やしたように見せるような工夫があるかもしれない。

質の面からは7月の決定会合でETFの買入の増額を決定したが、株式市場へのインパクトが強いこともあり、ETFの買入増額は当面はないとみる。財投債(国債の財投債ではない)や社債などの買入等の可能性はないことはないが、こちらは発行量は少なくインパクトは薄い上、やはりイールドカーブは寝かしたくはないであろうことがネックともなる。

金利の面からは、イールドカーブのスティープ化を意識した上で、金融機関の収益に悪影響を及ぼさないかたち(マクロ加算分を増やすことやマイナス金利適用分の一部除外等)でのマイナス金利の深掘りの可能性はある。

そして四次元目の政策としては、まさに四次元だけに時間軸を意識した政策の可能性もありうる。今回の検証では物価目標達成時期について「2年以内」という部分は看板から下ろすことが予想され、そのかわりに2%の物価目標の達成が見通せるまで、少なくともあと2年程度は現在の緩和策を継続するといった新たな時間軸を設定してくる可能性もある。

そして先日、浜田宏一内閣官房参与が「米国が量的緩和の出口に向かうのをちゅうちょすれば、日本は財務省の為替介入や日銀の外債購入によって投機的な為替投資家により真剣に対抗すべきだ」と述べたことで(ブルームバーグ)、米国債の購入としいう手段も市場では意識された。

しかし、これについて浜田氏本人が以前言っていたように、リーガルには許されていると述べながらも問題は相手であり、つまりは米国政府の意向が重視される。それよりも、もし投機的な為替の動きに対処するのであれば、その管轄は日銀ではないため、円安誘導のため日銀が米国債を購入することはできない。できるとすれば量的緩和策の一環として国内金融機関の保有する米国債を買い入れるといった格好となろうが、これも結局は為替政策であろうと米国サイドからかなりの批判が来ることは目に見えている。米大統領選挙も控えていることもあり、日銀による米国債の買入は現実的ではない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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