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多様なリスクと日米欧の金融政策の行方

久保田博幸金融アナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

14日にフランスのニースでトラックが群衆に突っ込むという痛ましい事件が発生したが、これはテロであったようである。そして、日本時間の16日の未明にトルコでクーデターが発生した。当初は情報が錯綜したが、市民が立ち上がりテロは未然に防がれた。

6月23日の英国の国民投票によりEUからの離脱が決まったことによる金融市場や世界経済への影響も懸念され、これを受けての日米欧の政府の対応とともに中央銀行の金融政策への影響も市場では意識された。

7月14日のイングランド銀行のMPCでは、一部に利下げ期待があったが現状維持となった。発表された議事要旨によると、ほとんどの金融政策委員は新しい経済予測をまとめる8月の金融政策委員会で、新たな金融緩和策を議論することを支持するとなっていた。つまり、利下げは8月のMPCで検討されるということになる。だかといって必ずしも8月のMPCで利下げが決定されるということではない。ロンドンの株式市場の代表的な指数であるFTSE100指数はすでに昨年8月あたりまでの水準に切り返している。8月の英国利下げを織り込んでとの見方もできなくはないものの、むしろ米国の株式市場でダウ平均が過去最高値を更新していることなどが影響しているとみられる。

今週21日のECBの政策理事会でも、英国EU離脱による金融市場への影響は一過性のものであったことや、懸念されていたイタリアの銀行問題についても市場を脅かすような状況に陥る懸念は後退しており、追加緩和は議論はされてもそれが決定されることはないと思われる。

株価指数が連日の高値更新となっている米国に関しても、英国のEU離脱による金融経済への影響、フランスのテロやトルコのクーデター未遂事件による地政学的リスクも意識されたが、比較的その影響は限定的となっていた。米株式市場では、これらよりもソフトバンクによる英ARM買収のニュースやポケモンGOの人気に影響を受けるなど、地合は明らかに改善されている。

ただし、世界経済そのものについては低迷が続くとの見方が強い。中国経済についてもバブルは崩壊し、クラッシュまでは起きていないが、低迷が続くことは確かであろう。アジア、欧州、中東、ロシアなどいろいろとリスク要因となりそうなものは潜在しているが、世界の経済や金融は以前に比べれば比較的安定しているように見える。

日米欧の中銀のなかで真っ先に正常化に向けた踏み出した米国であるが、6月の利上げは見送ったとは言え、利上げに向けた姿勢には変化はないとみられる。英国のEU離脱懸念を理由に6月に利上げを見送ったことで7月についても様子を見て、9月のFOMCで利上げを検討するのではないかと予想される。

そして日銀であるが、日銀の金融政策は建前上、為替や株を見て検討されるわけではない。しかし、それをかなり意識していることも確かであろう。ここにきて一時ドル円が99円台をつけた円高は調整されつつあり、株価は回復してきている。長期金利は比較的低位で安定しており、ここからさらにマイナス金利を引き下げても効果は限定的となろう。そうであれば無理をする必要はない。物価目標は遠い、だからといって追加緩和を決定すべき環境にあるわけではない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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