全く見えない日銀の出口政策
あらためて日銀のマイナス金利導入後の出口政策について考えてみたところ、そもそも出口にたどり着けることがありうるのかという問題があった。この場合の出口というのは、日銀がマイナス金利付きの量的・質的緩和政策を解除することになるが、それには条件として物価目標であるところの消費者物価指数(総合)の前年比がプラス2%を安定的に上回る環境が必要となる。
日銀は2013年4月の量的・質的緩和の導入に際して、2年程度の期間で2%の物価目標を達成できるとした。大胆な国債買入によりマネタリーベースを大きく膨らませることによって、レジームチェンジが意識されて人々のインフレ期待の高まりで、物価は上昇するとのシナリオであった。そこには国債買入による長期金利の低下、さらには大胆な緩和による円安の影響も意識された。
ところが物価は一時的に前年比プラス1.5%まで上昇したところでピークアウトした。その後の物価下落について日銀は原油価格下落が要因と指摘し、リフレ派は消費増税による個人消費の低迷が要因とした。少なくともレジームチェンジが意識されて人々のインフレ期待の高まりによる物価上昇は起きなかったことは確かである。
すでに追加緩和による通貨安誘導も困難となりつつあるなか、市場を通じた操作にも限度がある。このため日銀の金融政策で物価を上げることはほぼ困難と言える。物価が上昇するとなれば日銀の政策とは関係のないところで起きることが予想される。つまり原油価格の急騰などによる物価高となろう。しかし、このような外部要因での一時的な物価上昇により、日銀がマイナス金利付きの量的・質的緩和を解除するとは思えない。実際に2008年のリーマン・ショック前に原油価格の急騰でコアCPIが2%を超えた際も、日銀は動いていない。その際には、世界的なショックが起きていたことだけでなく、これが一時的なものとの判断も働いたと思われる。
つまりは日銀がいくら頑張っても物価目標を達成することは難しく、このままでは永遠に異次元緩和を続けることになりかねない。日銀は量の政策が厳しくなったことで、量も増やしながらそれとなく金利に目標をシフトしたが、これはかなり矛盾した政策である。いずれ国債買入で札割れが発生する可能性も出てくる。それでも日銀はマイナス金利のマイナス幅を深くする追加緩和でカバーするようなことになるのかもしれない。しかし、マイナス金利政策の弊害がすでにクローズアップされており、これが安倍政権の支持率を低下させるような状況になると、政権から日銀の追加緩和にブレーキを掛けるような事態も起こりうる。
このままでは日銀は次第に深みに入り抜け出せず、出口どころではなくなり、進むことも後退することも出来なくなる懸念がある。結局、日銀の出口政策は日銀の執行部が入れ替わるなどして、金融政策を異次元から通常次元に戻すことが必要となるのかもしれない。それには量を増やすことを止めて、金利もマイナスからプラスに戻して、あらためて金融政策の在り方を模索することが出口政策となるのかもしれない。しかし、市場を納得させてそれを行うことには、かなり困難を伴うことも確かである。