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日銀の異次元緩和補完措置の内容

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

12月18日に決定した日銀の「量的・質的金融緩和」を補完するための諸措置についてあらためて確認してみたい。

設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業に対するサポートとして、新たなETF買入れ枠を設定した。この目的のひとつは、2016年4月より開始される日銀が金融機関から買入れた株式の市場売却の影響を緩和させるためとなる。ただし従来、2021年9月末としてきた売却完了期限は2026年3月末まで延長させることも加えられており、株式市場に優しい政策となっている。

新たに年間約3000億円の枠を設け、「設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業」の株式を対象とするETFを買入れる。当初はJPX日経400に連動するETFを買入対象とするとある。いまのところ「設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業」の株式を対象とするETFはないことで、その組成を待っている形になる。しかし、「設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業」の「株」を買うことで、設備投資や雇用の拡大にどのように繋がるものであるのか。日銀はさらに成長基盤強化支援資金供給の拡充として成長基盤強化支援資金供給における適格投融資として、現在の18項目に「設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業」を追加した。こちらは理解できる。だからこの政策決定は全員一致だが、前者のETFに関しては6対3と3名の反対者がいることからも、ETFの買入増額はやや無理矢理な理由付けのようにも思われる。

そして「量的・質的金融緩和」のもとでの長期国債買入れに伴って、金融機関が保有する適格担保が減少していることを踏まえ、外貨建て証書貸付債権を適格担保とするほか、金融機関の住宅ローン債権を信託等の手法を用いて一括して担保として受け入れることを可能とする制度を導入する。

これは日銀が大量に買い込むから、このような事態が発生してしまったはずである。さらにこの措置は、長期国債買入れの平均残存期間の長期化とともに、日銀による買入可能な国債の金額を増加させることになる。行適格担保の拡充は全員一致、平均残存期間の長期化は6対3となっている。

適格担保の拡大により、日銀が買い入れる国債の金額の余地が拡がることになる(現在の日銀が受け入れている担保は約81兆円で、うち約44兆円が国債)。日銀は現在の資産買入れ方針のもとで、2016年中のグロスベースでの国債買入れ額は、保有国債の償還額の増加により、2015年中の約110兆円から約120兆円に増大する見込みとしているが、これは償還分の40兆円が年間保有額の増加ペースの80兆円に加わるためである。この措置はさらなる拡大(追加緩和?)に耐えうるようにしたというよりも、来年度は現状のままでも毎月10兆円ベースで買入を行わなければならず、そのための対応といえる。

このように今回の量的・質的金融緩和の補完措置はあくまで技術的な対応のはずである。それにも関わらず、資産の買入れになどについて対しては3名の反対者が出ているのはなぜなのか。この措置を、このタイミングで出す必要があったのか。来年度の国債発行計画に合わせた面もあったのかもしれないが、FRBの利上げを睨んでECBが追加緩和を決定したように、日銀は市場がもしかすると追加緩和と受け取ってくれるような技術的な政策変更を行ったという可能性もないとは言えない。しかし、市場ではこれを追加緩和と思ったけど、よく見たらそうではないのか、といった反応を見せた。

12月3日のECBの追加緩和とこの日銀の措置による金融市場の反応は、追加緩和に対する市場の反応度合いが微妙に変化していることが伺える。これはECBの踏み込みが足りなかったからといった理由からではない。仮にもっと踏み込めば、これ以上の追加緩和はさらに困難といった反応を見せた可能性もある。これは日銀についても同様であろう。それだけ、FRBの正常化はマーケット参加者の金融政策への見方を変化させたということで、意味があったともいえる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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