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日本初の鉄道と国債、あさの炭鉱との関わり

久保田博幸金融アナリスト
(提供:MeijiShowa.com/アフロ)

江戸時代には江戸や大阪の商人から半ば強制的に御用金と呼ばれるものを徴収していていました。御用金とは幕府が慢性的な財源不足や臨時の支出を補填するために発令したもので、江戸や大阪の商人などから半ば強制的に金銀を徴収していたものです。利子付きであり、元金返済を前提としているので強制的な「公債」という性格を持っていました。その利子も年利2~3%という超低利であり、現在の国債と同様のものとなっていたのです。

この御用金は1761年大坂の商人205名に対し170万両を命じたのが最初と言われます。当初は大坂や江戸の豪商に対して課せられたものでしたが、その後は堺、兵庫、西宮などの富裕町人、さらには一般町人や農村の富裕層にも命じられるようになりました。幕末に近づくほど頻繁に発令されたのです。特に1866年第2次幕長戦争の際には、大坂・兵庫・西宮の商人に700万両の御用金が指定されました。ただし、利子がしっかり支払われたのは最初の数年間のみで、幕末になるにつれ、利子はもちろん元金もほとんど償還されなくなっていったのです。あさの嫁ぎ先など、当時の大阪の両替商が苦労したのはこのようなことも要因にありました。

明治政府も当初、財政確保のためしばしば御用金を課したのですが1869年に廃止され、国債制度に切り替えられていったのです。その国債が日本ではじめて発行されたのが1870年です。

日本で最初に発行された国債は、鉄道敷設を目的とした九分利付外貨国債をロンドンにおいてポンド建てで発行されたものです。

岩倉具視、大隈重信、伊藤博文などの明治政府の関係者は鉄道建設の必要性を提唱し、「日本人によって鉄道建設が可能である」としたイギリス駐日大使パークスの意見もあり、鉄道建設に向けての企画が進められました。

しかし、国内で資金調達をしようとしても、明治政府は財政的基盤が固まっていなかったのです。金銀貨による幣制の統一を目指していたものの、貨幣素材の不足や造幣能力の不十分さもあって、金銀貨の鋳造すらなかなか進まなかったぐらいです。明治政府は資金の調達のために金銀貨に代わる支払手段として、政府紙幣や国立銀行券といった不換紙幣の発行に依存せざるを得ない状態となっていました。

商人への借入といった手段も考えられたのですが、あさの家の状況を見てもおわかりのように、当時の商人たちにも余裕はありませんでした。そこでパークスの紹介もあり、来日していた英国人資産家ハラチオ・ネルソン・レイを通じた私的な借入の契約を結ぶことにしたのです。しかし、レイによる資金調達が困難となったことから、ヘンリー・シュローダー商会を通じた「公募債」として調達されることになりました。

公債収入金の取り扱いについての日本政府の代理店としてオリエンタル銀行という銀行が指定され、ロンドン証券取引所で公募されることとなり、1870年4月23日に九分利付きで外債100万ポンドの日本国債が発行されました。これが日本初の国債発行であり、最初は外貨建てで発行されたのです。現在では日本国債の発行はすべて円貨建てとなっており、外貨建ての国債発行はされておりません。

この国債発行で得た資金を元に、必要な技術に加え、機関車や客車、線路、枕木、燃料の石炭などをイギリスから輸入し、1872年9月に新橋と横浜の間に日本初の鉄道が開通しました。1874年5月には日本で2番目の鉄道である神戸と大阪間が開通しています。

広岡浅子が石炭事業で頑張っていたのがこの時代となるのです。まさに時代の流れを読んでいたものといえるでしょう。また、鉱山王とも呼ばれた五代友厚は炭鉱ではなく金山や銀山の開発をしていました。こちらは明治政府が新貨幣の発行のために大量の金、銀を必要とすることを見越してのものと言えるでしょう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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