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2017年度までの物価目標達成は困難と木内委員

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

日銀の木内登英審議委員は9月3日の青森県での講演で次のような発言をしていた。

「私は過去2年半近くに及ぶ量的・質的金融緩和の効果などから、国内の経済・物価は、既に現在の日本経済の実力に見合った安定した状態を取り戻したと考えており、4月の展望レポート、7月の中間評価の予測期間である2017年度にかけては、このような安定した状況が続くと予想しています。」

2年半近くに及ぶ量的・質的金融緩和の効果「など」から、日本経済は実力に見合った、つまり潜在成長率に近いところまで戻ってきているとの認識のようである。ここでは量的・質的緩和などが成長率そのものを引き上げたということであろうか。

「量的・質的金融緩和の導入当初は、政策の影響を受けて実質金利が低下を続ける一方、先行きの実質所得の見通しには大きな変化が生じなかったため、将来の消費を前借りする金融緩和効果が一時的に生じたものと考えています」

果たして実質金利の低下が本当に消費行動に影響するものなのか。実質金利は名目金利と違って肌感覚のようなものとなるが、消費者がそれを敏感に感じ取っているとは考えづらい。ここには消費増税前の駆け込みや消費増税もあっての便乗値上げなども起きやすかったことが起きたとの見方もできるのではなかろうか。

「現在の局面では、実質金利の低下が一巡していることや、賃金上昇率が物価上昇率に簡単には追いつかないとの見方が消費者の間で広まっているように見受けられる」

ここで無理矢理に実質金利を持ち出さずとも、賃金が上がってないのに一部の食料品などの価格が上がって、消費が抑制されたという単純な図式ではなかったのか。

「物価情勢については、民間発表の小売価格統計には、食料品を中心に明確な上昇傾向がみられますが、より広範囲の物価指標である総務省公表の全国消費者物価指数には、依然として大きな変化はみられません」

広範囲の物価指標を押し上げるための異次元緩和であったはずである。食料品の値上げは円安などによる影響が大きく、株価の上昇などでアベノミクスが囃され、消費増税で価格も上げやすいというこのタイミングであったことで、しゃく品などの価格が上昇したとの見方もできる。価格を上げられるほど経済環境が果たして改善していたのか。ここにきての消費の落ち込みをみても疑問が残る。

「現在でも、物価上昇率は当面0%程度で推移したあと、かなり緩やかに上昇率を高めていくと考えており、2017年度まで視野に入れても2%に達する可能性は低いとみています。」

この見方には異論はない。しかし、この意見が日銀の政策委員のなかでは極めて少数派ことなっていることが問題ではなかろうか。期待で物価は動くとの魔法を信じて進まざるを得ないのが現在の日銀の姿であるとすれば、神風が吹くと信じて突き進んでいた70年前の日本の状況にも被るものがある。突き進めば進むほど後戻りはできなくなる。戦争も始めるより止めるのが難しかったが、異次元緩和も同様であろう。FRBがうまくテーパリングを成功させたからといって日銀が同じようにうまく行くとは限らない。物価目標達成まで消耗戦が続けられると、国債買入そのものが困難になることも予想される。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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