ドラギマジックは健在か
9月3日に開かれたECB政策理事会では、主要政策金利であるリファイナンス金利を0.05%に据え置いた。つまり金融政策は現状維持となった。参考までにECBは量的緩和策を導入しているものの、金融調節の目標は金利である。日銀は2013年4月の量的・質的緩和政策の決定に際し、金融調節の目標を金利ではなくマネタリーベースに置き換えている。
日銀が今後の金融政策において手足が縛られた状態にあるとされる理由は、異次元緩和で物価が上がらなかったことばかりではない。調節目標をマネタリーベースと置いてしまったため、たとえば追加の緩和もマネタリーベースありきで考えなくてはならないためである。この目標値をある程度上げるにはその市場規模から考慮すると国債買入という手段を取らざるを得ない。しかし、すでに国債の年間発行額の9割を買い占めている日銀がこれ以上国債買入を増やすと債券市場の機能低下ばかりでなく、国債買入の未達という事態を早期に招きかねないのである。
今回ECBはこの債券の買入に関して、債券1銘柄について購入できる割合の上限を33%と従来の25%から引き上げた。3日の欧州の株式市場や債券市場ではこの部分が特に好感されたようである。債券の買入規模に変化はないものの、制限を緩和することで将来の買入拡大の可能性を意識させたものと思われる。
ちなみに日銀は特に国債の銘柄毎の買入に制限は設けていない。これがいずれ何を招くのか。国債は直近に入札・発行されたものの流動性が高い。日銀にとって、いや日銀の買入に対応する業者にとっては国債入札で大量に応札して、それを日銀に売却するという手段が手っ取り早い。その分、債券市場の流動玉を減少させるだけでなく、近い将来の長期国債先物のチーペースト(現渡し可能な再割安銘柄でこの価格が先物に連動、現在は残存7年の10年債)が日銀の金庫に眠り続けることになる。つまり将来、昔起きたような債券先物の踏み上げが生じるリスクがある。
ECBにとってはまだ国債などの債券の買い余力はあるとの認識のようである。今回、ECBは成長とインフレの見通しを引き下げたこともあり、ドラギ総裁は必要ならば責務の範囲内であらゆる手段を駆使すると述べていた。今後、量的緩和策の拡充、もしくは量的緩和の終了時期の延期の可能性を示唆した。
2012年9月のECB理事会では新国債買い切りプログラム(OMT)決定した。ここでのキーワードは、対象となるイタリア、スペイン、ポルトガルなどの国債の「無制限買入」となっていた。これがひとつの決定打となり、市場で渦巻いていた不安が後退した。つまりリスク回避の動きがこれをきっかけに反転したといえる。ただし、このプログラムは器を作っただけで実施されていない。アナウンスメント効果が発揮されたものであり、ドラギマジックとも呼ばれた。この流れにのって、やはり口先介入により市場での新たな流れを加速させたのがアベノミクスと呼ばれたものとなる。