岩田副総裁もマネタリーベースを封印か
日銀がサイトにアップした5月27日の札幌市での講演要旨によると、岩田日銀副総裁は、日銀は2013年1月に所謂「インフレーション・ターゲティング(インフレ目標政策)」を導入し、この物価安定目標の実現に向けて2013年4月以降、「量的・質的金融緩和」と呼ばれる強力な金融緩和を進め、2014年10月には、これをさらに拡大する措置も講じた。こうした大胆な政策には、金融政策運営の基本的な考え方(レジーム)が転換したことを国民にはっきりと示し、そのことを前提に各自の経済行動を変えて頂きたいという意図が込められ、いわば、「ゲームのルールが変わりました」という宣言の意味があったと述べた。
岩田教授の持論であったインタゲやリフレ政策を日銀がついに取り上げたとの宣言だが、ゲームのルールを変えて、それでゲームをクリアーできたのであろうか。むしろ、ゲームのクリアーをさらに困難にさせてしまったというべきものではなかったろうか。
「私としては、「金融政策によってデフレは克服できる」という政策当局としての信念と、その実現に向けたコミットメントが十分でなかった、言い換えると、金融政策のレジーム転換が不十分だったために、家計・企業・金融機関など民間経済主体のマインドの転換が進まなかったことが大きな要因だと考えています。」
足りなかったのはコミットメントとそれを阻むマインドだそうだが、そのような見えないもので具体的な物価の操作が可能なのか。まさにゲームの世界での魔法のようなものに思える。
「「2年程度」という具体的な期間まで踏み込んで提示することで、物価安定目標の早期実現に向けたコミットメントを、これまでにない強い形で示したわけです。」
その2年が経過して肝心の物価は前年比2%どころか2年前と同水準にいるのはどうしてなのだろうか。
「「量的・質的金融緩和」の導入直前にマイナス0.5%のボトムをつけた後、消費税率引き上げの直接的な影響を除くベースで、昨年4月のプラス1.5%までは順調な上昇傾向を辿りました。」
金融政策の効果にはタイムラグがあるとの一般認識があると思うが、日銀の異次元緩和には即効性があったらしい。これはむしろそのタイミングをみると、異次元緩和はなくても物価の前年比が回復することが予想されていたなか、急激な円安による効果と原油が高止まりしていたことがその大きな要因として指摘できるのではなかろうか。
「2%の物価安定目標は、現時点ではまだ達成できていません。コアインフレ率は昨年4 月をピークとして徐々に低下傾向を辿り、足許では0%程度となっています」
その要因として、岩田副総裁は消費増税による需要の下押しと原油価格の下落を上げている。消費増税は突然発生したものではない。そして、原油価格の消費者物価指数への影響は大きいが、そもそもマインドコントロールが重要とし、それを操作するためにインタゲや財政ファイナンスに近い政策をとったにも関わらず、予定されていた消費増税や原油価格の下落で簡単に物価の前年比が縮小しまったというのは説明としてはおかしくはなかろうか。
「物価の基調的な動きは今後も着実に高まるとみられ、原油価格下落の影響が剥落するに伴って、インフレ率は目標の2%に向けて上昇していくものと思われます。」
その物価の基調的なものを異次元緩和のレジームチェンジで引き上げられなかったことで、原油価格に左右され、当初宣言した2年で2%の物価目標の達成ができなかったということになるのではなかろうか。これはリフレ政策の根本的なところに重大なミスがあったとはならないのか。今回の岩田日銀副総裁の講演のなかでも「マネタリーベース」という言葉が一度も使われていなかったことも、それを示しているのではなかろうか。講演後の会見では「マネタリーベース」についての質問が出たが、なぜか副総裁は異次元緩和のメカニズムにおいて、殊更に「量」ではなく「質」を強調していた。