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FRBの正常化は年末前か

久保田博幸金融アナリスト

イエレン議長は、就任後初めて開催された2014年3月18日のFOMC後の会見において、FRBはテーパリングを秋あたりに終了後、利上げまでは相当の期間(considerable period、声明文はconsiderable time)があるとしていたが、その期間とはどの程度なのかとの記者からの質問に対し、その相当の期間とは「Around Six Months」との考えを示した。

そのテーパリング終了を決定したのは2014年10月28日、29日に開催されたFOMCにおいてである。ただし、声明文になかで、事実上のゼロ金利政策に関しての「相当な期間」維持する方針について、変更は加えられていなかった。

12月17日のFOMC後に公表された声明文では、「金融政策の運営姿勢の正常化開始において辛抱強くいられる(can be patient)と判断する」との表現が加わった。さらにこのガイダンスはゼロ金利政策を「相当な期間(considerable time)維持することが適切になるだろうとした前回の声明と合致する」とし、市場が注目していた「相当な期間」との表現を残す格好となった。

その「相当な期間」が外されたのは2015年1月27日、28日のFOMCとなった。声明文では、 正常化まで「can be patient」との表現が維持されたものの、前回のFOMC声明文で、「considerable time」の部分は削除された。さらに「can be patient」との表現が残されたことに関して、前回のFOMC後の会見でイエレン議長は、我慢できるということは、FRBが今後2回の政策会合で利上げしない可能性が高いことを意味すると述べていた。

2015年3月18日のFOMCの声明文では、忍耐強くなれる(can be patient)との文言は削除された。その上で、次回の4月28~29日のFOMCでの利上げの可能性は低いとし、最短で6月のFOMCでの利上げの可能性があることを示唆した。

果たして就任直後にイエレン議長の言った「Around Six Months」はどこからカウントすべきなのか。今後のFOMCの日程は4月28~29日、6月16~17日(議長会見有)、7月28~29日、9月16~17日(会見有)、10月27~28日、12月15~16日(会見有)となっている。

テーパリング終了時であればその半年後の次回4月28、29日のFOMCとなるが、その可能性はなさそうである。「相当な期間」が外されたのは2015年1月となれば、それから半年後の7月のFOMCとなる。しかし、どうやら6月や7月のFOMCでの正常化も難しくなってきたようである。

3月17~18日開催のFOMC議事要旨によると、何人か(2~3人か)の会合参加者は、経済データや見通しからみて、6月の会合で正常化(つまり利上げ)を開始することが妥当であろうと指摘していた。しかしながら、他の参加者は、原油価格の下落による影響やドル高による物価低迷が長引く状況を考慮すれば、今年の後半になるまで金利の引き上げは待つべき、との意見のようである。さらに2人の委員は利上げが適切となる経済情勢は2016年まで訪れない公算が大きいとの認識のようであった。

このようにFOMCの参加メンバーのなかでも正常化時期については見方が分かれている。最近でもフィッシャーFRB副議長は年末前に利上げできる状況にある可能性と発言した。イエレン議長を含め、主流派の見方は「later in the year」との慎重姿勢に変化しているようである。足元経済指標が、好調を保っていた雇用も一時的かもしれないがブレーキがかかり、他の指標は総じて景気の減速を示すものとなっているためである。また、ギリシャの動向もリスク要因として意識されている可能性がある。

指標が軟調でも6月利上げなお可能と、クリーブランド連銀のメスター総裁は発言し、リッチモンド連銀のラッカー総裁やサンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁も同様の見方のようであるで、いまのところ早期利上げ派は少数派となっている。

これに対して6月利上げ望まずと、アトランタ連銀のロックハート総裁は述べており、こちらも主流派に属しているようである。

また、利上げ開始の条件は満たされていないとボストン連銀のローゼングレン総裁は述べており、投票権は有してないものの年内利上げについては慎重派のようである。

これらの意見が、ある程度集約されるのはいつになるのか。6月のFOMCで正常化を決定することはかなり困難となりつつあり、フィッシャーFRB副議長の言うところの年末前との見方が主流になっているように思われる。そうであれば9月というより、10月もしくは議長会見のある12月ということになる。FRBの正常化は予想以上に慎重に時間を掛けるようにも思える。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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