アベノミクスを否定する人に債券市場関係者が多い理由
アベノミクスや異次元緩和に対して否定する人は少なからず存在していると思われるが、いわゆるリフレ派と呼ばれる人たちは債券市場関係者と名指しをして、アベノミクスを否定している人が多いと指摘する。
アベノミクスや異次元緩和に漠然とした不安は抱いていても、それを具体的に説明することは難しい。そもそもアベノミクスの第一の矢が絡む中央銀行の金融政策や国債の売り買いをする債券市場についての一般の方による関心はきわめて薄いと思われる。このため具体的な批判を行っているのが、その金融政策や国債に対する知識も豊富な債券市場関係者となり、どうやらそれがリフレ派と呼ばれる人たちには気に入らないようである。
リフレ派の人たちが、アベノミクスを否定する人に債券市場関係者が多い理由として挙げているものが、債券市場関係者はデフレが続いて国債の価格が上昇してもらわないと困るからという、やや穿った考え方に基づいているようである。私は長らく債券市場で売買を行ってきたが国債の売りと買い、どちらが好きだといえば「売り」であった。ディーラーとしては、そのスピードが早い国債急落時のほうが儲けやすかったためである。投資家にとっても金利がほとんど付かない状態では運用難に陥るため、少しでも利回りがついていた方が運用しやすい。また高値の状態が続くと、その後いつ下げてもおかしくはないとの不安も働いて運用も慎重となりうる。金利が下がり続ければ保有する国債の評価益は増加するが、このまま金利が下がり続けることを望んでいる債券市場関係者は極めて少数であろう。
債券市場は国債発行を担当する財務省の意向を強く意識しているため、財政再建重視との財務省の意向に逆らうような意見は言えないというリフレ派の見方もあった。それもまた認識に大きな誤りがある。たしかに財務省も債券市場参加者も財政健全化を重視していることは確かであるが、その理由はただひとつ、売買している国債の信認を維持したいためである。国債を安心して売買できる環境を維持したいためである。もちろん国債を売買していることで、その巨額の発行量に危惧を覚えていることもある。ただし、財務省の意向を気にしながらというよりも、現在はむしろ財務省の方が市場参加者の意向を気にしているという方が正しいのではなかろうか。
金融関係の専門家・実務家であるはずの日本の市場関係者の人たち、これは当然債券市場関係者を示すとみられるが、なぜこれほどまで金融政策についての理解と関心が薄いのでしょうかとの意見もあった。しかし、金融政策の実務に詳しいのは、学者などよりも金利に関わる債券市場関係者ではなかろうか。現場で金利や国債の動向、それに関わる日銀の金融政策を常にウォッチして分析を重ねているのが債券市場関係者である。金利は研究室で動いているのではなく、現場で動いているのである。その現場の人間の多くが、アベノミクスや異次元緩和に否定的であるという事実こそ、むしろ注視すべきものなのではなかろうか。