日銀政策委員にふさわしい人物とは
1949年に日銀法の一部が改正され、戦後民主化の一環として日銀の最高意思決定機関である政策委員会が設置された。政策委員会のメンバーは、日銀総裁、大蔵省代表1名、経済安定本部代表1名、金融業に関し優れた経験と見識を有する者2名(都銀と地銀)、商業及び工業に関し優れた経験と見識を有する者1名、農業に関し優れた経験と見識を有する者1名の計7名となった。
1998年4月1日に施行された新日銀法のもとでは、日銀の最高意思決定機関として政策委員会が置かれた。新日銀法23条2項に「審議委員は、経済又は金融に関して高い識見を有する者その他の学識経験のある者のうちから、両議院の同意を得て、内閣が任命する。」とあるように、6名の審議委員は旧日銀法のあったように、それぞれの業界団体を代表するようなメンバーとは特に決められていない。しかし、旧日銀法の政策委員の選定方法がある程度世襲されており、産業界出身者、銀行出身者、学者、市場関係者、そして日銀プロパーなどでバランスが取られている。そして、例えば銀行出身者が任期満了となる際には、次期審議委員は同じ銀行出身者から選ばれることが多かったことも確かである。
ブルームバーグによると、内閣官房参与の浜田宏一氏は、3月と6月に相次いで任期を迎える2人の日本銀行審議委員の後任人事について、産業界や金融界などから選ぶべきではないとの見方を示したそうである。3月には神戸大学教授であった宮尾龍蔵委員が任期満了となり、6月には東京電力出身の森本宜久委員が任期を迎える。
後任人事については業界の世襲制といった形式よりも、日銀法にあるように経済又は金融に関して高い識見を有する者であれば、特定業界などを問わず、場合によれば日本国籍を問わず選出する必要があるという意見であれば賛成である。幅広いジャンルからいろいろな意見を持ちながら、ある程度の金融経済の知識、できれば実務面にも詳しい人物を選抜すべきであろう。参考までにオバマ大統領はFRBの次期理事に地銀出身ランドン氏を指名している。
ただ、もしかすると今回の浜田氏の意見は正論を唱えているように見せながら、本音は現在の日銀の政策に異を唱える人物は審議委員には適さないため、選出すべきではないと言いたい可能性もある。昨年10月の異次元緩和第二弾では政策委員の票が割れ、かろうじて5対4で追加緩和を決定した経緯がある。今回任期を迎える宮尾氏は賛成、森本氏は反対に回った。反対した4人は実業界出身者で、執行部(総裁と2人の副総裁)以外で賛成に回ったのは2人の「学者」出身者であった。
高度な金融や経済に関する知識を持っていても考え方はそれぞれであり、いろいろな考え方を持ち、できれば専門分野の異なる人物を政策委員に配するべきである。ある特定の考え方、しかもそれが正しいものであるのか非常に疑問が出てきた考え方をするような人物に統一してはいけない。日銀総裁の考え方に常に賛成するような人物は当然ながら配すべきではない。浜田氏の「業界の利益代表のような審議委員の選び方は好ましくないと思う」との発言に、もしもリフレ派の考え方に与する学者を取り込むべきとの考え方があるのであれば、それは間違った発想である。