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過去最低金利は中央銀行による自作自演

久保田博幸金融アナリスト

現在の日本と欧州の金利は歴史的な状況にある。あとで振り返ると当時、いったい何があったのかと疑問が生じるかもしれない。金利がマイナスになるほどのリスクがあったのか。金融経済に危機的状況が発生していたのか。リーマン・ショックやギリシャ・ショックと同様の危機が発生していたわけではない。なぜマイナス金利が発生したり、長期金利が過去最低水準にまで低下しているのか。

これはまさに中央銀行による自作自演とも言える。サブプライムローン問題に端を発した米国発の金融経済危機とギリシャの債務問題に端を発した欧州発の金融経済危機に対して、日米欧の中央銀行は政策金利をほぼゼロ近辺に引き下げたのち、国債の買入を中心とした非伝統的手段に転じた。金融政策は本来時間稼ぎでしかないものの、ユーロ危機が南欧を中心とした国債の問題であったこともあり、中央銀行の国債買入は国債市場の動揺を抑えることに成功し、大きな危機は去った。

米国ではサブプライムローン問題がそもそも住宅ローンに関する問題でもあり、米国債と同様の規模をもつ住宅ローン担保証券(MBS)の市場が大きかったこともあり、米国債とMBSの国債の買入がある程度の効果を与えたであろうとも確かであろう。しかし、それ以上に大きな危機が沈静化し、経済が回復する余地が広がったことも大きかったと思われる。このためFRBはいち早く非伝統的手段からの脱出に成功しつつある。

これに対して信用危機の発生元である欧州の景気回復は鈍く、物価も低迷し続けた。ECBは2014年6月に政策金利の下限下限金利であるところの中銀預金金利(預金ファシリティ金利)をマイナス0.1%に引き下げ、マイナス金利を実施した。

ECBのドラギ総裁は国債買入を主体とした量的緩和を実施したいと考えていたようだが、ドイツなどの反対で量的緩和には踏み込めず、やむなくマイナス金利を導入した。しかし、その効果もなくユーロ圏のCPIは前年比マイナスに落ち込み、今月22日の理事会で国債買入を中心とする量的緩和導入の可能性が出てきた。

しかし、ECBが実施しようとしている量的緩和に、果たして効果はあるのか。マイナス金利まで導入したにも関わらず、物価がいっこうに上がらず、さらなる緩和に踏み込む必要性は本当にあるのか。しかし、その追加緩和期待からドイツなどの長期金利が異常な水準にまで低下している。

金融政策にはタイムラグが必要との声を聞くが、あれだけの金融緩和をここ数年にわたり実施してきて物価がいっこう上がらないのはなぜなのだろう。中央銀行は政策変更の前にこのあたりを分析する必要があるのではないのか。そのデータも当然ある。それをまず生かすべきであり、むやみやたらに異次元緩和だ量的緩和だ、マイナス金利だ、に踏み込むべきではない。

日銀の異次元緩和も今年4月で2年が経過する。すでにその効果がなかったことは昨年の追加の異次元緩和でも明らかである。これを消費増税や原油価格の下落を理由にするのはおかしい。思い切った金融緩和で期待や予想が変わり、それで物価が上がるとしていたのではなかったろうか。ECBも同様である。マイナス金利を導入しても効果がないものを国債買入で物価を上げられるのか、日銀の実証例はまったく参考にしていないのか。

もちろんECBも日銀も本音を言えば、期待などより通貨安を狙った策であろうことも確かであるが、気まぐれな市場を相手にしている以上、その効果は限定的であるのも確かである。大胆な緩和策で、残るのは異常な金利の状態と、日本では中央銀行による大量の国債買入という事実である。しかも、日欧の物価は原油価格の下落など次第ではまだ下がるかもしれない。それに対して、大胆な国債買入などのメリットはほとんどなくデメリットのほうが大きくなる可能性がある。

何のための金融緩和なのか。そろそろ日銀も含めて真剣にこれまでの異次元含む金融政策の効果について大胆な検証をして、その効果をはっきりさせた上で、今後の金融政策の方向性を探る時期にきてはいまいか。日本も欧州も長期金利が過去最低の水準にまで低下したのは中央銀行による自作自演によるものであり、それが何これからを引き起こすのか、これも良い実証例となるかもしれないが、これが新たなリスクを生じさせる可能性もある。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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