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日銀はカラクリで何とかしようとしたオズの魔法使い

久保田博幸金融アナリスト

12月のロイター企業調査によると、アベノミクスがデフレ脱却に効果があったとの回答が7割以上を占めたそうである。これに対して共同通信社の第3回トレンド調査によると、政策「アベノミクス」について「評価しない」が過半数を占めたそうである。

何を持ってアベノミクスとするのか。どのような結果を持ってそれを評価するのか。選挙前ながら、この点については冷静に見る必要がある。

アベノミクスが登場したのが2012年11月であり、ここで金融市場の景色が変わる。それまでの円高局面が反転し急速な円安が進み、この円安もあり株高も進行した。この円安株高をもってアベノミクスは成功したとするのであれば、結果論としては納得はできる。

ただし、この円安株高のきっかけとなったのは、安倍自民党総裁の日銀が国債を大量に買い入れて輪転機を回せば良いという、財政ファイナンスを容認したかのような発言にあったことは忘れないでいただきたい。しかも、ユーロの信用危機が後退しつつあり、何かしらのきっかけに円高調整と株高が起きておかしくない環境にあった。そこに政権交代によるレジームチェンジへの期待も発生した。

その後、アベノミクスは二の矢、三の矢を出してきたが、リフレ政策による一の矢による影響が最も大きかった。それはあくまで円安株高を発生させたという意味である。米国を主体に世界的な景気回復も手伝い日本の景気も回復しつつあり、株高がその幻想を強めさせることになる。

しかし、消費増税の影響が予想以上に出たことで景気は大きく落ち込む。これをリフレ派はせっかく異次元緩和でデフレから脱却しつつあるところに消費増税など実施したからこうなってしまった、すべては消費増税がいけないと決め込んだ。

そもそも日銀の異次元緩和などでデフレ脱却はできない。物価が上がっていたのはたまたま原油価格の高止まりと円安による効果が、何もしなくてもブラスに浮上していた物価を想定以上に押し上げていただけである。だから原油価格の下落だけで、前年比上昇幅はあっさりと縮小してしまった。リフレ政策でインフレ期待などは発生していなかったことはこれからも明らかであり、アベノミクスの元にあるリフレによるデフレ脱却そのものは立証されていない。

アベノミクスによりデフレ脱却、つまり前年比2%にむけて物価上昇を引き起こすとのもくろみは期待うんぬん以外の原油価格の下落によって困難になりつつある。だからこそ、日銀は10月31日に追加の異次元緩和を決めざるを得なかった。しかも、その手段は期待に働きかけるというより、タイミングを狙った円安政策に他ならない。

日銀の黒田総裁は魔法を使って物価を上げてデフレ脱却を招く救世主のように見ていた人がいたかもしれないが、なんのことはない魔法など使えずカラクリで何とかしようとしたオズの魔法使いであった。リフレ政策がそもそも財政ファイナンスというリスクと引き替えに、大胆な金融政策を仕掛けているように見せざるを得なかったためであろう。

いやそれでもアベノミクスや、その中心となる日銀の異次元緩和は絶大な効果があったと思うのは勝手であるが、それでは異次元緩和がどのような経路を通じて何をもたらせたのか。過去の日銀の金融政策と何が違ったのか、よく考えてほしい。国債のリスクだけ増加させた壮大な実験に過ぎないと私は考える。その意味では、ロイターの結果にはやや疑問を感じるが、共同通信社の結果は納得できるものである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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