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なぜいま解散総選挙なのか

久保田博幸金融アナリスト

12月14日に衆院選挙が実施される。12月4日の新聞各紙は自民党が300議席を伺う動き(日経)、自公、300議席超す勢い(読売)、自民300議席超える勢い(朝日)とそれぞれ別な調査ながら、同じような結果が出ていた。

なぜいま解散総選挙なのか。消費増税を先延ばしするために、その是非を国民に問う必要があるというが、それは言い訳に過ぎないであろう。12月8日に発表された7~9月期のGDP二次速報は上方修正かとの予想に反し下方修正されたが、そもそも消費増税の決断はこの二次速報を確認してからと官房長官などからは指摘があった。しかし、それを一次速報のタイミングに前倒しした。ご承知のように一次速報もプラスとの予想に対してマイナスとなったことで、消費増税延期やむなしとの見方も強まった。

たしかにこの7~9月期のGDPも解散に向けたひとつのきっかけにはなった。事前予想もマイナスというのはなかったものの、エコノミストの予想も以前の予想から大きく下方修正されており、一次速報の発表で消費増税延期の決断をし、解散に打って出るとのシナリオが遅くとも11月はじめには練られていたことが下記要因により推測できる。

11月2日に安倍首相の右腕と言われる飯島勲氏がテレビ番組で「12月2日に衆議院が解散、14日に投開票が行われる」と発言したことが話題となった。飯島氏はテレビ番組で、「補欠選挙をやった後に7月~9月の経済状況が明らかになる。11月17日くらいにはわかりますから、20日くらいに総理は消費税を10%に上げるかどうか決断する」と一気に読み上げ、 さらに「その後の12月2日に、思い切って衆議院解散して、12月の14日に投開票。24日に内閣改造、予算は越年」と告げたそうである。飯島勲氏のほぼ予言通りに衆院は解散され、14日に投開票となったのである。これは偶然の一致であったであろうか。

11月9日の読売新聞朝刊は一面で、安倍首相が来年10月に予定されている消費税率10%への引き上げを先送りする場合、今国会で衆院解散・総選挙に踏み切る方向で検討していることが8日、分かったと伝えた。首相はこうした考えを公明党幹部に伝えたとみられるとしている。年内に解散する場合、衆院選の日程は「12月2日公示、14日投開票」か「9日公示、21日投開票」とする案が有力だという。この読売新聞の記事については自民党に影響力を持つ渡辺恒雄主筆からの指示だとの見方が週刊誌に掲載された。ある程度、解散総選挙への道筋が示されていたと思われる。

実際には11月18日に安倍首相は記者会見を開いて消費再増税延期と年内解散・総選挙を表明した。21日に衆院を解散、衆院選の日程は12月2日公示、14日投開票となる。

GDPも消費増税も解散総選挙に向かう材料にされたに過ぎず、今回の衆院解散については綿密な戦略な練られていた可能性があった。その戦略を立てる上で、ビッグデータが利用されていたとの見方がある。つまり、いま解散すればどの程度の議席を与党というか自民党が確保できるのか、ある程度予測していた可能性もある。

内閣改造後の二人の閣僚の辞任により、安倍政権の支持率は低下しつつあるとはいえ、まだ高い水準を維持していた。さらにこのタイミングでの解散総選挙となると、野党の準備が間に合っていない。アベノミクスの効果そのものに疑問符もつき始めていたが、このタイミングであれば、現議席に近い議席を維持可能とのデータがあった可能性がある。遅くとも11月上旬には衆院選挙に向けたタイムスケジュールが組まれ、それが連立与党の公明党にも流れ、いずれ公になるのであればと飯島氏がテレビで発言し、与党は準備態勢を整えたということであろうか。

ここでひとつ大きな疑問が残る。10月31日に異次元緩和第二弾を決定した日銀はこの動きを知っていたかである。解散総選挙に向けての安倍首相の動きは日銀は感づいていなかった可能性がある。そのひとつの証拠として、10月31日の政府側出席者による異例の中断要請である。政府としても日銀のこの動きはサプライズであり、歩調を合わせたものではなく、日銀が勝手に動いてくれたことで、円安株高も期待され、政府にとってはしめしめという状況となったのではなかろうか。これがさらに解散総選挙に向けた追い風になった可能性もある。その期待通り、ドル円は121円台に乗せ、12月8日に日経平均は18000円台に乗せてきた。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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