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ムーディーズは日本国債を格下げ、市場は冷静

久保田博幸金融アナリスト

12月1日の夕方に格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスは、日本の政府債務格付け、つまりは日本国債の格付けを「Aa3」から「A1」へ1段階引き下げたと発表した。

その理由として、財政赤字削減目標の達成可能性に関する不確実性の高まり、デフレ圧力の下での成長促進策のタイミングと有効性に関する不確実性、それに伴う中期的な日本国債の利回り上昇リスクの高まりと債務負担能力の低下をムーディーズは指摘している(ムーディーズのブレスリリースより引用)。

つまりは消費増税の延期による財政健全化目標の達成が難しくなったことと、アベノミクスそのものの効果を疑問視し、日本国債の利回りの上昇リスクを格下げの理由としたようである

衆院選の公示前に発表したことは、政治的な配慮であったのかもしれないが、このタイミングでの発表には意外感もあった、これを受けての日本国債への売りは、これまでの格付け会社の格下げ時と同様にいまのところ限定的である。債券先物で10銭程度売られただけであり、10年債利回りも0.005%程度上がったに過ぎない。

日経平均先物も一時100円以上売られたが、こちらも下げ止まった。そして、外為市場では円が売られるのではなく、株安もあって円が買われるような状況になっている。これらの動きを見る限り、今回もまた日本国債に関しては、格付け会社はオオカミ少年のようなかたちとなっている。

むろん、ムーディーズの格付けについてはある意味当然といえば当然である。消費増税の予定通りの実施を意識した上での日銀の異次元緩和第二弾と、その後の安倍政権による消費増税の延期のミックスは日本国債のリスクを増加させたことは確かである。しかし、それでもまだ日本国債が暴落するような兆しはみせておらず、市場参加者のポジションの都合で円が買われるぐらいである。もし、オオカミ少年がやってくると円も日本国債も日本株も同時に急落するはずである。

それでもこれは日本に対してというか、安倍政権と日銀に対する警告ともいえる。その意味はしっかり理解ししておく必要がある。日本国債が暴落しないのは、市場参加者にとり危機意識がそこまで高まっていないためとみられる。しかし、暴落しないから何をやっても大丈夫であるはずはない。マーケットは怖いことも覚えておく必要があろう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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