日銀の円安頼みには限界も
東京商工リサーチのまとめによると、原材料高を原因とした倒産は9月に21件発生し、前年同月の11件から急増した(10月6日の日経電子版)。8月の後半から急激に進行した円安による原材料高が中小・零細企業を中心に倒産件数を押し上げたようである。
日銀の黒田総裁よる円安容認発言などをきっかけとして、円売りドル買いの動きが強まり、ドル円は8月半ばに102円台となっていたのが、10月1日に110円台に乗せてきた。この円安ドル高と呼応するかのように日経平均株価も上昇し、16000円台を一時回復していた。ただし、円はユーロに対してはあまり下落しておらず、ユーロ円は9月19日に141円台に乗せる場面があったが、ここにきて137円台となり8月の水準近辺にいる。
今回、仕掛け的な動きが入ったと予想されるが、それは円売りドル買いと日経平均先物買いに限定されるような動きとなっていた。ただし、東京株式市場の上昇は米株の上昇による影響もあったとみられる。その米株はここにきてやや乱高下しており、3日は9月の米雇用統計を受けて大きく戻してはいるが、先行きの方向感は掴みづらい状況となっている。
果たして今回の円安ドル高と日経平均の上昇は長続きするのであろうか。2012年11月以降のアベノミクスの二番煎じを狙った感もあるが、今回は円安による日本経済への影響について、プラスどころかマイナスの影響を危惧する声も出ており、今回、それが円安による原材料高を原因とした倒産件数にも表れてきた。
日銀の黒田総裁は3日の衆院予算委員会で「経済実態と合った形で円安になっていった場合、経済全体としてはおそらくプラスだろう」と述べ、最近の円安を容認する姿勢を改めて示した(読売新聞)。
安倍首相は2日の参院本会議で、急激な円安で日本経済への悪影響が懸念されていることに関し「為替への言及は差し控える」とした上で、「7~9月期の国内総生産など各種の経済指標をよく見ながら、燃料価格の高騰を含め、経済の状況等に慎重に目配りしていく」と述べたそうである(時事通信)。
アベノミクスの原動力となっていたのが、ほかでもない円安であったことは確かである。急激な円高調整と株高が、ユーロ危機の終焉というタイミングで、リフレ政策と政権交代によってもたらされ、物価の上昇にも大きく寄与した。その物価の上昇にブレーキが掛かりつつあるだけに、日銀の黒田総裁としては再び円安の影響力に期待したいところであろう。しかし、円安による好影響よりも悪影響のほうが浮き彫りとなりつつある。
このあたり日銀にとっても大きなジレンマとなりそうである。10月6日から7日にかけて金融政策決定会合が開催されるが、この円安の影響についても委員の間で議論が交わされることが予想される。もし円安に頼れないとなると、日銀の想定した物価上昇のシナリオに狂いが生じることも予想される。追加緩和はそう簡単にできるものではないことは、日銀が最もわかっていることであろう。
次の追加緩和があったとしても、それが日銀にとって裏目に出ることも十分予想される。規模を膨らませれば、財政ファイナンスの懸念を強めることになりかねず、小出しにすれば異次元緩和の意味が問われかねない。日銀にとって、物価が目標値に向かって上昇し、円安などの影響もあり株価も上昇、雇用もそれなりに回復となることが最善のシナリオとなる。これまでは確かにそのベストシナリオに近い動きとなっていたが、そのような好環境がこれからも継続するとは限らない。ドラギマジックにやや陰りが出てきたが、日銀の黒田マジックもこれから正念場を迎えることも予想されるのである。