円安を巡り政府と日銀の認識に違いも

外為市場では円安が進み、9月19日にドル円は109円46銭まで上昇した。しかし、ここをピークにドルは戻り売りに押され、108円前半あたりまで下落した。110円という大台を手前にしての利益確定売りが入ったものと思われる。

米国株式市場ではダウ平均など過去最高値を更新していたこともあり、こちらも戻り売りに押され、22日と23日は連日でダウ平均は100ドル以上の下げとなった。また、米国債は押し目買いが入り、10年債利回りは2.6%台から2.5%台に低下した。ドイツや英国の長期金利も同様に低下していた。

今回のドル高、米国株式や米長期金利の上昇は、これでピークアウトしたのであろうか。ダウの下げ幅はやや大きくなってはいたが、今回の下落は一時的な調整とみられ、大きな流れに変化はなく、ドル円の110円台乗せも時間の問題のように思われる。

安倍首相は23日夜(日本時間24日朝)、ニューヨーク市内で同行記者団と懇談し、最近の円安傾向について、「円安はプラスもマイナスもある。地方経済や中小企業への影響をしっかり注視したい」と述べ、輸入品の価格高騰などに関し、慎重に見極める考えを示した。

2012年末にリフレ政策を掲げて華々しく再デビューを果たした安倍首相であるが、アベノミクスの目的は、2%の物価目標にあった。その原動力となったのが、自らのリフレ発言をきっかけとした円安・株高である。三本の矢をあとから掲げてはいたが、その中心にあったのが円安・株高であり、そこに政府の財政政策が多少加わったものが、アベノミクスと騒がれた。

そのアベノミクスの勢いが削がれ、消費増税による影響が思いのほか大きいとみられていたときに、再び円安の勢いが増してきた。この流れをうまく使おうと日銀の黒田総裁は円安容認とも取れる発言を繰り返し、これもひとつのきっかけとなり、円安の勢いが増してきた。

今回の円安は2012年11月のような急激な円高調整ではなく、ドル高が大きな要因となっている。そのドル高の背景に、FRBの利上げ観測がある。それに対して日銀は追加緩和も辞さない構えをみせており、日米の中央銀行のスタンスの違いが円安ドル高の背景にある。もちろん、米国の利上げを可能にするだけの米国経済の回復への期待と、それに対する日本や欧州の景気の低迷がドル高に拍車をかけていた面もある。

22日にニューヨーク連銀のダドリー総裁は、急激なドル高に関して、経済成長とインフレの浮揚に向けた金融当局の努力を損なう恐れがあると発言していた。ただし、これはあくまで急激な動きに対する警鐘であり、米国としてはドル高についてはある程度、容認せざるを得ない。

米国のルー財務長官は17日の講演会で「強いドルは良いことだ」と述べ、円安ドル高を事実上容認した格好となった。これは過去に米国の財務長官がドル高は国益にかなうと常に言い続けてきたことの延長線上にあるものの、G20でもドル高に関しては黙認となったように、けん制はしづらい状況にあることも確かであろう。

23日にセントルイス連銀のブラード総裁は、10月のFOMCでテーパリングの終了を発表するのに伴い、声明から低金利維持の文言を削除する必要があろうとの認識を示した。10月に削除されるかどうかはわからないが、ゼロ金利解除に向けた姿勢を徐々に強めてくるであろうことは確かである。

これに対して日銀は物価目標の達成には、黒田総裁の円安容認発言などから、円安のフォローが必要と認識しているようにも思える。26日発表の8月のCPIなども確認したいが、秋以降のCPIが予想ほど上昇してこない可能性もある。そうなれば日銀には追加緩和圧力が掛かってくることが予想される。

現在の日銀のスタンスからみて追加緩和は、かなり難しい問題となる。むろん追加緩和手段がないと言うわけではない。ただし、バズーカと呼ばれた異次元緩和や戦力の随時投入はしないとの主張と、次の緩和ではその内容によってはスタンスに大きなかい離が生じる可能性がある。日銀への期待がそこで削がれ、むしろ市場にとっては逆効果となる懸念すらありうる。

日銀にとってはこのまま円安の勢いが増して、株高も伴ってくれれば追加緩和は先送りできる。株高は政府にとって歓迎であろうが、円安については日本経済の受け止め方がこれまでと異なりつつあり、そのあたり今回の安倍首相の発言からもうかがえる。政府というか自民党にとって、今後の選挙を見据えると地方を意識せざるを得ないが、円安はむしろ地方経済にとってはマイナス要因ともなり、物価目標達成よりも、選挙のほうが意識されることは十分考えられる。

ただし、相場は政府・日銀であろうとコントロールできるものではない。2012年のアベノミクスもたまたまタイミングが良かった。今回もタイミング良く、円安の勢いを強めた格好だが、この流れを人為的にうまくコントロールすることは難しい。今回、円安ドル高の動きにはいったんブレーキが掛かったが、あくまで小休止しているだけと見ておいたほうが良さそうである。

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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