次回のECB理事会の結果次第で市場は動揺も
ECBのドラギ総裁は、カンザスシティー連銀が主催したジャクソンホールでのシンポジウムにおいて、ユーロ圏のインフレ期待が「大幅な低下を示した」と発言したが、この発言は講演原稿にはなく、同総裁のアドリブとされている。
さらに政策姿勢を一段と調整する用意がある、とした講演原稿の中でも、今までの定番の「必要になった場合は」の文言が省かれていた(25日のブルームバーグのニュースより)。
8月29日に発表される8月のユーロ圏インフレ率は前年比0.3%増と7月の0.4%増からさらに低下した。
ここにきてユーロ圏の国債は軒並み買われ、ドイツやフランス、ベルギー、オランダ、さらにはアイルランド、ポルトガル、スペイン、イタリアの10年債利回りは過去最低を更新している。この背景には日本型デフレを回避すべく、ECBの追加緩和への期待がある。
そのECBの金融政策を決定する政策理事会が9月4日に開かれる。市場ではQEと呼ばれる量的緩和政策への期待も出ているようだが、量的緩和への移行は簡単にはできない。ユーロ圏の中央銀行の超過準備にマイナス金利を課していているのに、中央銀行のリザーブを増加させようという相反することになりかねない。そうではなく量的緩和というよりも、ユーロ圏の国債を買うことに意味があるとして、財政ファイナンスに絡んだ法律上の問題とともに、国を跨いだ中央銀行としての財政に関わる部分に多くの問題が出てくる。日本や米国、英国のように単純に国債を買えるというわけにはいかない。さらにインフレファイターとされるブンデスバンクを抱えるドイツ関係者の意向も気になる。
このようにECBとしては日銀のように量的緩和策として、大胆に国債を買い入れるとの手段は取りづらい。だからこそ、今年6月5日のECB政策理事会では、包括的でパッケージされた追加緩和策が決定されたのである。
6月5日に政策金利は0.1%引き下げられ、リファイナンス金利が0.25%から0.15%となった。コリドーとよばれる政策金利の上限と下限については、上限金利が0.4%%に引き下げられ、注目された下限金利であるところの中銀預金金利(預金ファシリティ金利)はマイナス0.1%となった。新型のLTROとなる金融機関に対しての期間4年・4000億ユーロの資金供給オペ(TLTRO)の導入や、過去の証券市場プログラム(SMP)で供給された流動性を吸収するため毎週実施していた不胎化オペの中止、資産担保証券(ABS)買い入れに向けた準備をすることなども決定した。
2013年4月の日銀の異次元緩和と同様に、出せるものは全部出してきた格好であったことで、次の手段が難しくなる。日銀は幸運なことに物価は上昇しつつあり、景気も回復基調となっていたことで、追加緩和は封印することができたが、ECBはそのようなフォローの風は吹かなかった。
果たしてECBは次の手段として何を準備するのか。大胆な国債買入れという手段が講じられないとなれば、さらなる利下げという可能性もある。またトリシェ前総裁は、ECBは新たな政策を発動するよりも、6月に発表した追加緩和措置の実行を優先すべきとの認識を示した。本来であれば、今回はこのあたりが落ち着きどころになると思われるが、ドラギ総裁の先日の発言からみて、ここに何かしら新たな手段も講じてくるのか。
ユーロ圏の国債バブルはさらに膨らみ、市場ではECBに対して期待を強めている。その期待に沿った行動がとれるのか。はたまた期待は裏切られるのか。9月4日のECB理事会の結果次第では、世界の金融市場が動揺する懸念もあり、注意が必要となる。個人的には国債買入れを含めて大胆な手段には踏み切れないとみているのだが。