市場に影響を与えそうな地政学的リスク
サッカー・ワールドカップの決勝はドイツがアルゼンチンを破り、24年ぶり4度目の優勝を果たした。熱心なサッカー・ファンで知られるドイツのメルケル首相も決勝戦を現地で観戦していた。ワールドカップという大きなイベントが終わると再びいろいろなリスクが表面化してくる可能性がある。
今回決勝で戦ったドイツとアルゼンチンであるが、ドイツについては財政の健全化が進んでいるのに対し、アルゼンチンではテクニカル・デフォルトの可能性が指摘されている。現在は30日間の利払い猶予期間入りとなっているが、いまのところアルゼンチンのデフォルトによる市場への影響は軽微とみられている。国際的なリスク要因になる懸念は大きくはないが、その動向も注意したい。
ワールドカップの次回大会はロシアである。ウクライナ問題がそのころまで続くようであれば、欧米勢のボイコットもないとは言えない。ロシアのプーチン大統領は13日にブラジルのリオデジャネイロでドイツのメルケル首相と会談した。メルケル首相はワールドカップの決勝を観戦、プーチン大統領は次回の開催国の代表としてブラジルを訪れていた。
この会談ではウクライナ軍と親ロシア派武装組織の停戦を実現する方法や、和平協議の再開などについて意見を交わしたとみられる(日経電子版)。政府専用機で巨額の費用をかけてのサッカー観戦に批判も出ていたメルケル首相だが、今回は仕事もしっかり入れていたようである。ウクライナの和平協議が多少なり進展すれば、ここでのリスクも後退する。
ウクライナより、イラクやパレスチナなどの中東の方がむしろ気掛かり材料となりうる。政府軍とイスラム過激派の戦闘が続くイラクではクルド自治政府が独立に向け動きを活発化させており、北部のクルド、中部のスンニ派アラブ、南部のシーア派アラブへと分割される懸念も出ている。また、クルド人勢力が油田をも支配下に置いたことで原油価格への影響も懸念されている。
中東情勢においては、イスラエルによるガザ地区に対する空爆が続き、陸上部隊投入を含めた軍事侵攻の可能性も出てきている。13日にパレスチナ自治区ガザ地区北部の海岸線に、イスラエル軍特殊部隊が上陸し、イスラム原理主義組織ハマスの長距離ロケット弾発射施設を攻撃しハマス側と交戦した。ガザでの地上戦が開始されており、こちらの情勢についても注意が必要となる。
ここにきてリスク要因とされたのが、ポルトガルの大手銀行、エスピリト・サント銀行に対する懸念である。これについては11日にポルトガル首相とポルトガル中銀が「金融システムの安定に悪影響を及ぼすものではない」と表明。さらにエスピリト・サント銀行は創業者一族のファミリー企業への融資に対し、生じる恐れがある損失を十分に吸収できるとの見方を示した。これを受けてポルトガルの国債や株式市場は反発した。どうやら、この問題に関しては国際的なリスク要因となるようなことはなさそうで、懸念は後退しつつある。
ところがウクライナとともにイラクでは国が分裂する懸念も出ている。そこにイスラエルとパレスチナのあらたな火種も出ており、動向次第ではこれらが地政学的リスク要因としてあらためて浮上してくる可能性もある。しかし、直接金融市場でのリスクを高めるものではない。リスク回避の動きが生じたとしても、一時的なものとなり、金融ショックなどをもたらすようなことは考えづらいのではなかろうか。