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先物の見せ玉で行政処分

久保田博幸金融アナリスト

少し前の記事ではあるが、6月12日の日経新聞によると、証券取引等監視委員会は、中堅証券のむさし証券の自己売買部門の運用担当者が東証株価指数(TOPIX)先物で相場操縦していた疑いがあり、担当者を行政処分するよう金融庁に勧告する方針を固めたそうである。

先物などデリバティブの相場操縦への勧告は今回が初めてとなるが、これはある意味、画期的なものであると同じに、これまで同様な処分が行われなかったことが不思議なくらいである。

今回、不正に得た利益は500万円程度とされ、この担当者は昨年夏に大きく2回に分けて、それぞれ成立させる意思のない買い注文を大量に出したとされる。いわゆる見せ玉を行っての相場操縦であった。

これが具体的にどのようなことを行っていたのかは、記事だけでは明らかではない。ただし、債券先物についても私がディーラー時代でも寄り付き前に、大口の売り買いを入れたり、寄り付き直前に引っ込めたりすることは頻繁にみられた。これは市場参加者の推測する寄り付き水準に対して混乱させようとの意図があったようにも思われた。とは言うものの、ある程度の寄り付き水準は予想可能であり、見せ玉であろうことは容易にわかるケースが多かった。しかし、見せ玉ではなく、本当に大きな玉がそのまま残ることもあったため、実弾の売買が入っている可能性はまったく排除できず、相場を読む上でも非常に迷惑な行為であったことも確かである。

ザラ場中でも、値段が容易に飛ばないであろう範囲で大きな売買を指し値するということも見られた。ただし、この手法は現在のHFTも入り込んでいるシステムでは高速売買も入ることも想定するとリスクも高い。このため主に寄り前の操作ではなかったかと思われる。

日本初の金融デリバティブ商品である債券先物取引を含めて、先物取引では見せ玉のような動きは昔からかなり見られた。私もディーラー時代は、迷惑だなとか、取引所で規制はかけられないのかと思ってはいた。取引所などからの注意はあったようだがそれがなくなることはなかった。しかし、今回の行政処分により、この見せ玉という手法が取りづらくなるであろうことは確かではなかろうか。

今回の金融庁の動きは、LIBORの不正操作や、HFTと呼ばれる超高速取引の規制の動きなども影響している可能性がある。見せ玉についても単独で行うだけでなく、連携して行っている可能性もありうる。商品先物取引などでも日常茶飯事で行われているとされるだけに、相場の読みを乱すような見せ玉への本格的な規制強化は歓迎であり、しっかりと取り締まっていただきたいと思う。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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