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ECBも壮大な実験を開始

久保田博幸金融アナリスト

6月5日のECB政策理事会では、包括的でパッケージされた追加緩和策が決定された。政策金利は0.1%引き下げられ、リファイナンス金利が0.25%から0.15%となった。コリドーとよばれる政策金利の上限と下限については、上限金利が0.4%%に引き下げられ、注目された下限金利であるところの中銀預金金利(預金ファシリティ金利)はマイナス0.1%となった。

ECBの発表した声明文によると、「The negative rate will also apply to reserve holdings in excess of the minimum reserve requirements and certain other deposits held with the Eurosystem.」とある。つまりマイナス金利は預金ファシリティ金利だけでなく、超過準備や政府預金などを含めてユーロシステム内にある同様の預金に関して適用される。

今回のECBの追加緩和については、利下げ幅に限界があったため小幅利下げとならざるを得ず、このため緩和効果をより発揮せるため、主要中銀としては初めてのマイナス金利の導入を決定したとみられる。しかし、個人的にはあくまでアナウンスメント効果狙いで、今後の量的緩和政策の導入を見据えれば、超過準備の付利は行わず、資金の逃げ道を作るとみていたが、その逃げ道も完璧に塞いだ格好となる。

ECBは今回、新型のLTROとなる金融機関に対しての期間4年・4000億ユーロの資金供給オペ(TLTRO)の導入や、過去の証券市場プログラム(SMP)で供給された流動性を吸収するため毎週実施していた不胎化オペの中止、資産担保証券(ABS)買い入れに向けた準備をすることなども決定した。

今回のECBの政策は量的緩和とは一線を置いて、信用緩和を意識した格好となっている。新型のLTROに加え、ABS買い入れについても量的緩和を意識したものではなく、中小企業への支援などが目的と思われる。

さらに預金ファシリティ金利だけでなく、超過準備を含めてのマイナス金利の導入がひとつのポイントとなる。日銀の量的・質的緩和の目的はベースマネーそのものを引き上げて、それにより物価上昇を期待するものであるのに対し、ECBの今回の政策はむしろ超過準備などの部分にペナルティーを与えることで、ポートフォリオリバランスを狙っているように思われる。

6日の欧州の債券市場ではベルギーやフランス、アイルランド、イタリア、スペインの国債利回りは過去最低を記録した。ECBの追加緩和は欧州の国債バブルをさらに加速させた。

アベノミクスが成功し日銀の異次元緩和は一見、うまくいっているように見える。しかし、ECBは最終的に物価を上げるために、量的緩和政策とは相反することになるマイナス金利も導入した。これがうまく行くのか。壮大な実験がもうひとつ始まった。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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