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日米欧の中央銀行の神経戦開始

久保田博幸金融アナリスト

15日に発表された2014(平成26)年1~3月期四半期別GDP速報によると、成長率は年率プラス5.9%と予想の4.4%程度を大きく上回り、名目もプラス5.1%となった。予想された消費増税引き上げ前の駆け込み需要の影響で個人消費(民間最終消費)がプラス2.1%となった。さらに民間設備投資が前期比プラス4.9%もの伸びとなった。こちらは企業業績の回復も背景にあるとみられる。この結果、2013年度の成長率は実質でプラス2.3%、名目でプラス1.9%となり、2014年度へのいわゆるゲタは実質で1.2%を確保したことになる。

GDPデフレーターは前年同期比プラス0.0%となった。プラス転換は2009年7~9月期以来18四半期ぶりとなる。甘利経済財政・再生相はGDPデフレーターがプラス転換したことを受けて「デフレ脱却に向けて着実に前進している」との認識を示した(日経電子版)。

1~3月期のGDPはある程度高めに出ることが予想されていたが、事前予測でもここまでの高さは予想されておらず、ややサプライズ感があった。また、GDPデフレーターがプラス転換したことも日銀の金融政策に少なからず影響を与える可能性がある。

イングランド銀行は15日に四半期物価報告を公表した。カーニー総裁は記者団に対し、利上げに関して「最終的にはこの先の経済の展開次第で決まる。とりわけスラックの度合いとそれが解消される見通し、そして広範なインフレ見通しに左右される」と語った。つまり利上げを急がない姿勢を示し、年内の利上げの可能性は後退した格好となった。

ECBのメルシュ理事は14日、6月の次回会合で行動を起こすことに「やぶさかではない」とドラギ総裁が8日に述べたのは、トリシェ前総裁の手法を踏襲したものだと語ったそうである。2003年から11年までの在任中にトリシェ前総裁は利上げ実施の1か月前になると強い警戒という表現を用いていた。ただし、利下げの前にこの表現は使っていないそうである(ロイター)。

金融引き締めは事前に浸透させ、金融緩和はサプライズ感も意識させることが重要であり、トリシェ前総裁はその手法を意識したとみられる。それに対してドラギ総裁が追加緩和を事前に示唆するということは、ある程度手段が限られるなか、アナウンスメント効果を意識して特に為替に働きかけようとの意向であったのかもしれない。このあたり、2012年11月にアベノミクスが登場して日銀総裁、ではなく自民党総裁が大規模な追加緩和を示唆し、円安を導いたことも意識された可能性がある。

ECBのプラート理事はドイツ紙ツァイトとのインタビューで、「条件付きになるだろうが、銀行に一段の長期資金を提供することは可能。再利下げも可能。複数の措置の組み合わせも考えられる」と述べたそうである。そしてECB内では最も注目されるドイツ連銀のバイトマン総裁もECBが政策行動を起こす必要があれば、ドイツ連銀も行動の用意があると表明した。ただし、量的緩和について、ユーロ圏の低インフレ解消に「おそらく」適していないとの考えを示したそうである(ロイター)。

このあたりの発言からは選択肢としては、どうやら利下げの可能性が高そうで、下限金利のマイナスも視野に入れている可能性もある。いずれにせよ6月にECBが何らかの行動を起こす可能性は高まってきている。

FRBのイエレン議長は、就任後初の会見で具体的な利上げの時期について、量的緩和終了後半年後と述べてしまったが、これはどうやら口が滑ってしまったもののようで、その後は火消しに走っている。実際にはイングランド銀行と同様に利上げについて検討はしていてもその素振りは見せず、過度に市場が織り込まないよう配慮しているものと思われる。

ECBの追加緩和観測の強まりとイングランド銀行の年内の利上げ観測の後退などから、欧米各国の長期金利は大きく低下し、15日に英国の10年債利回りは2.58%近辺に低下し、イタリアやスペインの長期金利は過去最低を更新した。ドイツの長期金利は1.38%に低下し、米長期金利も2.54%に低下した(16日には2.5%割れに)。

来週20日、21日には日銀の金融政策決定会合が開催される。ECBは為替動向を見据えての動きを強め、イングランド銀行とともにFRBも利上げ観測を少しでも和らげようとしており、欧米の長期金利の低下も含め、外為市場では円高圧力が高まることも予想される。

日銀としては1~3月期のGDPやデフレーターをみても、異次元緩和が効いているとの認識を示すことも予想される。1~3月期よりも消費増税後の4~6月期の方が気になるものの、日銀の見解としては4~6月期もそれほどの落ち込みはないとしており、民間の予想も小幅に上方修正(ESPフォーキャスト調査)するなどしている。

しかし、ここで日銀にとって異次元緩和の効果を強調してしまうと追加緩和観測がさらに後退し、これによる円高圧力が強まることも予想される。このあたり、外為市場を巡っての日米欧の中央銀行の神経戦が始まっている。日銀がどのような姿勢を見せるのか。21日の決定会合結果とともに、黒田総裁の会見内容、しいてはネクタイの色を含めて注目する必要がありそうである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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