日銀の物価目標達成への自信
4月8日の日銀金融政策決定会合後の会見で黒田総裁は、需給ギャップはおそらく縮小している。ほとんどゼロに近い。賃金・物価は目標に向けて着実に進行。雇用は想定以上に改善。賃金も上昇している。物価安定目標の達成については確信を持っていると発言した。
10日の日経新聞朝刊は、日銀は4月30日に公表する「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」で、2016年度も物価上昇率が前年度比2%程度を維持するとの見通しを示す方向だと伝えた。
今年1月の決定会合で発表された展望レポートの中間評価では、2015年度の消費者物価指数(除く生鮮食料品、コアCPI)の前年同月比見通しの中間値は、プラス1.9%(消費税率引き上げの直接的な影響を除いた数字)となっていた。
日銀は、4月および10月の金融政策決定会合において「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)を公表しており、1月および7月の金融政策決定会合では、その直前に公表された展望レポート以降の情勢の変化を踏まえたうえで中間評価を公表している。
日銀は今後のコアCPIに対して、今年の夏あたりまでは1%前半の横ばいで推移し(2月のコアCPIはプラス1.3%)、その後は円安効果というよりも需給ギャップの縮小による物価上昇をシナリオに描いているようで、それにより2%の物価目標が達成できると認識しているようである。
日銀試算による需給ギャップが昨年10~12月期にマイナス0.1%となり、ゼロ近辺に縮小していたことが明らかになった。ただし、同時期の内閣府の試算ではマイナス1.6%となっており、日銀と政府の資産には開きが生じている。
需給ギャップとは、経済全体の供給力と現実の需要との間の乖離のことであり、一般に「需要不足額」として認識されている。理論上、中央銀行は金融政策によってこの需給ギャップに影響を与えることで、インフレ率を望ましい水準に誘導していくことが可能であるとの考え方がある。
そもそも潜在成長率がどの程度であるのかは、推計の仕方によりかなりの幅があるとみられ、日銀は低めに、内閣府はやや高めに見ていると思われる。ただ、現在の日本経済の状況を考えると、潜在成長率についてはやや低めに見積もってもおかしくはない。日銀の試算も無理矢理に2%の物価目標に向けての数字を作っていたわけではないとみられる。先日の黒田日銀総裁が会見における表情から見ても、2%の物価目標達成に向けて自信を持っていることは確かなのかもしれない。ただし、潜在成長率は期待と同様に正確に測れるものではないことも意識しておく必要がある。
果たして日銀の見方通りに物価が2%の目標に向かって上昇してくるのか。4月からの消費増税により、便乗値上げも相次ぎ東京大学が試算している日次物価指数も足下、大きく跳ね上がっていることも確かである。夏を待たずに消費増税分の影響を除いても、2%近くまでの上昇もあるのではとの見方も出てきている。
これで少なくとも日銀が追加緩和を行うような環境ではないことが明らかとなった。それが8日の日銀総裁の会見後の円高株安の要因となったが、今後も7月あたりかとの見方も多かった日銀の追加緩和観測が大きく後退することが予想される。私自身は日銀の追加緩和は戦力の随時投入を避ける意味でも困難との見方をしていたが、そもそも追加緩和は必要ないぐらいに目標に向けて順調な道筋を辿っているとして日銀は市場の追加緩和観測を修正させたいのかもしれない。無理矢理の追加緩和をするぐらいであれば、日銀は黙って現状維持、の道を選ぶことも適切であるのもしれない。
しかし、円安効果が薄れつつあるなかで本当に物価目標は達成できるのか。消費増税もあっての今後の景気の動向はどうなるのか。そのあたりの不透明要因もある。そして本当に物価が上がると認識されれば、いかに日銀が大量に国債を購入していようが、異常な低さに収まっている長期金利が動意を見せてくるはずである。