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ECBはバズーカ砲(量的緩和)を準備

久保田博幸金融アナリスト

ECBは3日の政策理事会において政策金利の据え置きを決定した。主要政策金利であるリファイナンス金利は0.25%、下限金利の中銀預金金利は0.00%、上限金利の限界貸出金利は0.75%にそれぞれ据え置かれた。

先日、私の書いた昼の牛熊コラム「異次元緩和一周年記念でECBもバズーカ砲を撃つのか」で、量的緩和政策導入の可能性が若干でもあることを指摘したが、利下げを含めて今回の理事会では政策変更はなかった。

しかし、ドラギ総裁は理事会後の記者会見で、ECBは低インフレが長期間続くと見込んでいるとし、あまりに長期化するようなら行動する考えを示した上で、「理事会は、低インフレが過度に長期化するリスクに効果的に対処するため、責務の範囲内で、非伝統的手段も活用する決意で一致している」と発言した。下記がECBサイトにある原文である。

「The Governing Council is unanimous in its commitment to using also unconventional instruments within its mandate in order to cope effectively with risks of a too prolonged period of low inflation.」

「unconventional instruments」は非伝統的金融政策とも言うべきもので、政策金利がゼロ近辺となり、金融政策としての金利操作に限界が生じた際に中央銀行が、主に量を意識して打ち出す政策といえる。日銀が2001年から2006年に行った量的緩和政策に代表されるもので、米国ではQuantitative easing、QEと呼ばれている政策である。

ドラギ総裁は質疑応答において、非伝統的手段としてQEを視野にいれていることもはっきりとコメントしている。つまり日銀でいえばバズーカ砲を準備しつあるようである。

「So this statement says that all instruments that fall within the mandate, including QE, are intended to be part of this statement. During the discussion we had today, there was indeed a discussion of QE.」

このあたりの予兆は、3月25日にタカ派で知られるドイツ・ブンデスバンクのバイトマン総裁の発言から伺えた。既にゼロ近辺となっている政策金利を一段と引き下げることでの効果は限られており、非伝統的な措置に関する協議が必要だとの認識を示していた。法的な障害が多く考えられるものの、量的緩和は「論外」ではないとも語ったのである(ロイター)。

あのバイトマン総裁が量的緩和に言及するというのは、かなりの意外感があった。それだけここにきての物価下落のリスクが意識されていたと思われる。31日に発表されたユーロ圏の3月の消費者物価指数は前年同月比0.5%の上昇となり、2月の0.7%の上昇から上昇幅を縮めている。

デフレ懸念については、ドラギ総裁やプラート専務理事は否定していたものの、今回のドラギ総裁の低インフレへの警戒を強めるような発言は、日本のデフレと同様の事態も意識し始めている現れではなかろうかと思う。

バイトマン総裁は3月25日のインタビューの中で、ユーロ高がインフレ見通しに及ぼす影響に対応するためには、「中銀預金金利のマイナスへの引き下げが他の措置よりも適切」とも述べていたことで、さらに一段の政策金利の引き下げを行って、量的緩和を導入する可能性がある。

2010年10月に日銀が決定した包括緩和政策では、実質的なゼロ金利政策と国債を含めた資産買入等の基金創立、さらに時間軸の明確化を組み合わせていた。このあたりを参考にしてくる可能性がある。

ECBは量的緩和(QE)で何を購入するのか。FRBは米国債とMBS、イングランド銀行や日銀は国債が主体であった。ECBは国を跨いでの中央銀行という特殊性を持っているが、量を変えるのは国債以外に考えづらく、国債主体の買入が予想される。そのタイミングは意外に近いのかもしれない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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