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異次元緩和一周年記念でECBもバズーカ砲を撃つのか

久保田博幸金融アナリスト

一部ではあるが4月3日のECB政策理事会での追加緩和観測が出ている。ECBのドラギ総裁は、ECBは行動する準備が整っているとの発言を繰り返しており、2月23日にシドニーでのG20終了後、3月6日にフランクフルトで開く次回会合までに「行動の是非を判断する上で必要な十分な情報」を得るだろうと述べていたが、3月6日のECB理事会では追加緩和は決定されず、現状維持となった。ECBのチーフエコノミストであるプラート専務理事は2月22日に「われわれは物価上昇圧力が弱いことや、こうした物価動向の弱さが中期的なものになりつつあることを認めている」と述べた。ただし、3月12日には「われわれは必要だと判断した場合は行動する。まだそこまで来ていない」とプラート専務理事は述べていた。

ユーロ圏のインフレ率はECBの目標水準を数カ月にわたり大きく下回っており、足元ではデフレ懸念がくすぶる。28日にドイツ連邦統計局が発表した3月の消費者物価指数速報値(EU基準)は前年同月比0.9%の上昇となり、2月の1%から低下した。同日にスペイン国家統計局が発表した3月の消費者物価指数速報値(EU基準)は前年同月比マイナス0.2%となった。マイナスは2009年10月以来となるそうである。そして、31日に発表されたユーロ圏の3月の消費者物価指数は前年同月比0.5%の上昇となり、2月の0.7%の上昇から上昇幅を縮めた。

デフレ懸念については、ドラギ総裁もプラート専務理事も否定しているが、デフレ先進国であった日本のCPIは今年3月で前年比プラス1.3%となっており、すでにユーロ圏のCPIを大きく上回っている。ECBは3月6日の理事会で、初めて2016年というかなり長めのインフレ見通しを発表するそうであるが、ここでの予想がひとつの目安としている2%を大きく下回るようなことになれば、追加緩和への理由となりうる。

果たして4月3日の政策理事会でECBは行動を起こすのか。市場参加者で追加緩和を予想する人は少ないが(ブルームバーグがまとめたエコノミスト調査では、利下げ予想は57人中3人のみだとか)、可能性は意外に高いのかもしれない。個人的にはここで数少ないカードを切る必要はないと考えているが、ECBは予想以上に為替や物価動向を気にしている可能性がある。

昨年11月7日のECB政策理事会では市場参加者の多くが予想しなかった追加緩和を決定している。この際に主要政策金利であるリファイナンスオペの最低応札金利を0.25ポイント引き下げ、過去最低の0.25%としている。預金ファシリティー金利については現行の0.0%のままとした。

もし4月3日に追加緩和となれば、預金ファシリティー金利はマイナスとなる可能性がある。11月7日の会見で「技術的な用意は整っており、ECBが有する手段のひとつだ」とドラギ総裁はコメントしている。今年2月12日にはクーレ専務理事もマイナスの中銀預金金利について、検討している選択肢だと述べている。

また興味深いことに、3月25日にタカ派で知られるドイツ・ブンデスバンクのバイトマン総裁(当然ながらECB理事会メンバーの一人)は、既にゼロ近辺となっている政策金利を一段と引き下げることでの効果は限られており、非伝統的な措置に関する協議が必要だとの認識を示した。法的な障害が多く考えられるものの、量的緩和は「論外」ではないとも語ったそうである(ロイター)。

実は昨年11月7日にECBが電撃利下げを決定した際に、バイトマン総裁は反対に回っていた。ドラギ総裁は、バイトマン総裁が中心となる理事会メンバーの約4分の1の反対を押し切って、利下げを決断したとされている。

そのバイトマン総裁は3月25日のインタビューの中で、ユーロ高がインフレ見通しに及ぼす影響に対応するためには、「中銀預金金利のマイナスへの引き下げが他の措置よりも適切」とも述べていた(ロイター)。

追加緩和には常に反対するイメージからミスター・ノーとも称されたバイトマン総裁の発言からは、リフレ政策を掲げ、急激な円安を招いて株高を促し、円安による影響もあり物価も上昇してきた日本をかなり意識しているのではないかとも考えられる。

追加緩和により、ユーロ安を促して、ついでに物価も上昇させようとの意図が背景にあるとすれば、日銀のバズーカ砲程度の威力あるもの、との意識が働くのかもしれない。昨年4月4日に日銀が異次元緩和を決定しての約1年後の今年4月3日の理事会に向けて、ECBは何かを用意してくるのか。もしかすると、日銀の異次元緩和一周年記念行事の一環として、前夜祭となる4月3日にドラギ総裁が今度はバズーカ砲を撃ってお祝い、みたいなことになりそうな予感もなきにしもあらず。もしそうなると、これは今後の世界の金融市場に大きな影響を与える可能性もあるだけに注意も必要になりそうである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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