市場の感応度に注意
市場の動向を見る上では、なかなか理屈が成り立たないことが多い。そこで「市場のことは市場に聞け」と突き放したような言い方もされる。市場が正しいかどうかはさておき、市場の動きを読む上では、市場が何に対して感応度が強くなっているのかに注意すべきである。
テレビなどのニュースを見て、暢気に芸能人のスキャンダルや風物詩などばかり流して、もっと取り上げるべき記事があるだろうとの声が聞こえるときがある。テレビのニュースも当然ながら視聴率を意識しており、それは視聴者がどのようなニュースに関心があるのかが重要になる。視聴者の関心が何に向いているのか、を捉えることが善し悪しはさておき重要となる。
これは市場も同様である。この点を理解しないと、自分の見方は正しいはずだが、市場が間違っていたおかげで損をしたということになりかねない。ケインズは著作で、金融市場における投資家の行動パターンを表す例え話としての美人投票を挙げている。「投票者は自分自身が美人と思う人へ投票するのではなく、平均的に美人と思われる人へ投票するようになる」と。市場は短期的には市場参加者が何に注視しているのかで動きが決まる。
市場参加者が何を重視しているのかをある程度直感的に得ることが市場でサバイバルする上で重要となる。その感応度の大きさ、さらにその先行きについての予測と、不確定なことが起きたときに感応度の大きさの変化などを即座に感覚的に捉えることが重要となる。残念ながらこれらを材料別に数値化することはできず、目で捉えるというよりも感じるものとなる。
今回のアルゼンチンやトルコ、中国の問題も突然出てきたものではなく、すでにそこにあった問題であった。ところが欧州の信用不安がそれを覆い隠す厚いベールとなり、そのベールが剥がれてくると、今度は欧米の景気回復やFRBのテーパリングの行方が注視されるようになり、新興国のリスクは追いやられていた。FRBはテーパリング開始を決定し、今年に入り順調に上昇していた欧米の株価も頭打ちとなった。市場では注目すべき材料がなくなり、新たな材料を見いだそうとした。そのようななかで新興国の問題が取り上げられるようになり、トルコ・リラやアルゼンチン・ペソが狙い撃ちされた。それがリスクオフというテーマに繋がり、円やスイスフランが買われ、ギリシャの国債が売られた。
しかし、この新興国という材料に対しての市場の感応度は2010年のギリシャ・ショックなどに比べ、あまり高いものではなく、消去法的に出現したものとも言える。世界的な金融危機が続いたことで警戒心は強いものの、いまのところ金融システム不安に繋がるような恐れは少ない。大火事になる前にぼやで消火可能と思われる。市場の感応度も次第に薄れ、別の材料を模索することになるのではなかろうか。