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長期金利のガラパゴス化は継続可能か

久保田博幸金融アナリスト

いよいよ年も押し詰まり、これを書いている本日は大納会ということで、今年の債券相場の予想に対する反省と、少し早いが来年の課題を考えてみたい。

今年の相場に対する私の予想は私のサイト「債券ディーリングルーム」のコラム「若き知」というコーナーの過去ログを探っていただけると2013年1月4日のところに掲載されている。

言い訳ではないが、元債券ディーラーとして、相場水準を予想して当てることは無意味と考えている。それでは儲からないではないかと言われそうだが、ディーラーは水準を当てるのではなく流れを読むことが重要であり、自分の事前予想など書いたそばから忘れてしまうような人のほうがむしろ儲かる。予想に縛られて流れに乗れないといった事態は避けなければならない。繰り返すが、これは言い訳ではない。

それはさておき、1月4日に書いた「今年のテーマは超低金利時代の終わりか」というタイトルであった。どうやらタイトルからして外しているようである。超低金利時代は終わっていない。1月の長期金利は0.8%台にいたことで、それよりも現在の0.7%近辺はむしろ低い。これを書いた当時は日銀総裁が誰になるのかもまだわからなかった。国債の大胆な買入れという異次元緩和の可能性をさほど高く見積もっていなかったのが、大きな反省材料であった。ただし、日銀が国債を大量に買い入れることが仮に分かっていたとしても、それで何が生じるのかを適格に予想することはかなり困難であったことも事実である。

そして、1月4日のコラムでは、以下のようなことも書いていた。

「アベノミクスへの期待が円安を進行させ、株高を演出した側面はあるが、あくまでこれは、大きな流れが変わっていたタイミングで、その流れを強めさせる起爆剤になったに過ぎないとみている。今回の円安の最大の要因は、世界的なリスクの後退にある。それを裏付けるようなものが年初に出てきた。1月3日に発表された2012年12月11~12日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨である。この中で、一部の委員から出口を意識した発言が出ていたのである。 複数の委員は資産購入策を13年末までに停止するかペースを減速することが適切になる可能性があるとした」。

2012年11月以降のアベノミクスと呼ばれた急速な円高調整とそれにともなう株高の背景には、世界的なリスクの後退があったことは間違いないと思っている。米国の株式市場が過去最高値を更新しているが、これは当然ながらアベノミクスによるものではない。それを示す顕著な事例として持ってきたFRBのテーパリングについても、ぎりぎりながら12月のFOMCで実現化した。

「いきなり2%まで上昇するようなことは考えづらいが、1%割れがそもそも過去には一時的であったことを考えれば、1%台への回復あたりは近いうちにありうると見ている。ただし、これはあくまで異常ともいえる超低金利の状態が終焉するとの予想であって、長期金利が加速して上昇するようなことは想定しづらい。実際に債券先物の動きを見ても、じりじりと下値を切り下げている格好である。現物債には投資家の押し目買いも控えているとみられ、日本の長期金利の上昇は緩やかなものになると予想される。」

近いうちと書いたが、日本の長期金利が1%に乗せたのは5月であり、それが今年の長期金利の最高値となった。その後は10月30日に0.6%を再び割り込むなど超低金利が続く事になった。そこからじりじりと上昇し、年末に向けて0.7%台に上昇した。

ということで、今年の相場予想の反省を踏まえて、来年の債券相場を予想するにあたり、ひとつテーマを掲げてみたい。そのテーマとは「長期金利のガラパゴス化は継続可能か」である。

FRBのテーパリングの開始の決定、イングランド銀行は将来の利上げ観測も出てきている。ECBについても追加緩和にはかなり慎重な姿勢を見せている。それに対して、日銀は外部環境などおかまいなしに、2%という物価目標に向けて邁進している。その目標となるコアCPIはプラス1.2%まで上昇してきたが、それはそろそろ頭打ちになる予想となっている(消費増税の影響は除く)。

来年4月からは消費増税が実施され。それによる景気への悪影響も意識して、日銀の追加緩和期待も根強い。しかし、日銀の次の一手はかなり困難さを秘めている。日銀は戦力の随時投入はしないと宣言している。追加緩和期待に応えようとしても中途半端な緩和でお茶を濁すようなことはむしろできない。かといって今年4月のようなバズーカは撃てない。同様規模でまた国債買入増額などしようものなら、さすがに債券市場は機能不全に陥り、財政ファイナンスとの見方があらためて浮上しかねない。

来年はアベノミクスやこの異次元緩和の矛盾点が次第に浮き彫りになる年と思っている。日本の長期金利だけが低位安定し続けられるのか。日銀が舵取りを誤るとマーケットはかなり荒れてくることも予想される。期待に働きかけるのは良いが、追加緩和という期待に対して日銀はどう応えるのか。追加緩和に財政拡大、打ち出の小槌や麻酔に頼ることによるリスクをどう考えるのか。そのあたり、来年の大きな課題になると思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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