欧米の中銀と歩調を合わせられない日銀
日米欧の金融政策があらためて市場の関心事となり、ドル円は101円台、ユーロ円は136円台を回復し、ダウ平均は引けで16000ドルの大台をつけてきた。22日の日経平均は15500円台に乗せてきている。
ここであらためて日米欧の金融政策について自分なりの意見をまとめてみたい。まずは一番注目度の高いFRBであるが、バーナンキ議長は任期中に出口に向けた道筋をつけたいとの意思に変わりは無いと思われる。それをイエレン副議長なども支援してこよう。イエレン副議長はたしかにハト派であるが、ハト派だからテーパリングに反対するというようなことは考えない方が良い。そもそもなぜQEのような非伝統的手段を講じなくてはならなかったのかを最も良くわかっている人物のはずである。大規模な国債の買入はあくまで非常時の対応であったはず。ハト派という意味ではバーナンキ議長そのものがヘリコプター・ベンとの異名を持っていたほどであり、その議長本人がテーパリングを強く意識しているのである。
12月のFOMCでテーパリング開始を決定するとみているエコノミストは全体の5%程度との報道があり、来年1月を含めても市場ではまだ少数派とみられる。11月分の雇用統計を確認し、さらには政府の財政協議の行方もまだ不透明ではあるが、雇用に悪化がみられず財政協議も進展するということがあれば、早ければ12月、遅くとも1月のテーパリングの決定の可能性は高いとみている。意外に少数派の意見が正しかったこともある。少数派の見方が正しかったという例として、11月7日のECBの利下げ決定があった。
ECBについては、この電撃利下げもあり雇用環境や物価情勢次第では追加緩和もありうると見ているむきが多いのではなかろうか。中銀預金金利のマイナスへの引き下げが会合で話し合われたことも事実のようである。しかし、11月7日の利下げは残り少なくなった切り札を使うチャンスと意識して、より効果的なタイミングを狙って使ってきたように思う。欧州危機は去りつつあり、こちらも危機対応からは脱したいところであろう。ただし、注意すべきはFRBも含めて「伝統的な手段」による金融引き締めには、つまり利上げとなるが、これにはかなり時間を置くであろうということである。これは外部環境だけでなく市場のマインドにも配慮したものと思われる。
イングランド銀行は、その伝統的手段による引き締めに言及した。カーニー総裁は、必要なら2015年の選挙前に金利を引き上げる用意があると言明した。ただし、これもすぐに政策金利を引き上げると言っているわけではない。あくまで金融政策の向きを変えつつあることを示唆したのである。FRB・ECB・BOEは利上げについてはかなり慎重ながら、非伝統的手段については市場に悪影響を与えないような格好で、店じまいを行うつもりのようである。
それに対して日銀であるが、異次元緩和という壮大な実験を行ってしまったばっかりに、欧米の中銀と歩調を合わせるわけにはいかなくなった。店じまいどころか、さらに風呂敷を拡げなくてはならないような状況にある。非常時の対応としてではなく、物価を目標まで上げるために大規模な非伝統的手段を講じてしまった。国債を倍買えば、物価がドンと上がるわけではないことは、日銀自身が最も良くわかっていたはずである。トップは入れ替わったが、それまで日銀が否定してきたものをいきなり受け入れることは難しい。しかし、政府の意向は重要であり、異次元緩和は受け入れざるを得なかった。異次元緩和決定以前に安倍総裁のリフレ発言をきっかけに円高調整は進み、株も上昇していた。円安による物価上昇、世界的なリスク後退や米国の株式市場が過去最高値を更新するなどのフォローの材料もあり、いまのところは物価も回復するなど異次元緩和は効果があったかのように見える。しかし、日銀が大量に国債を買うことで、それが直接物価や景気に働きかけているわけではない。リフレ派の一部もどうやらそれを薄々わかってきたような発言もみられる。ここにきての物価上昇は、異次元緩和以前から予想されていたものに、円安やエネルギー価格の影響で幾分、かさ上げされていただけであり、むしろ来年4月以降は頭打ちになるとの予想が多い。今後は思ったほど物価が上がらないときに何をするのか。結局、日米欧で日銀だけが非常時の対策をより規模を拡大して行わざるを得なくなる。それがいったい何を招くのか。次の日銀の一手はかなり注意してみておく必要がある。