ドル円100円突破すると債券先物を売る人
11月15日の日本の債券市場は久しぶりに動きを見せた。引け際まで債券先物(長期国債先物の中心限月)は145円近辺、10年債の利回りは0.6%近辺での膠着相場となっていた。ところが債券先物は14時50分あたりからそこそこまとまった売りが入り、144円90銭近辺から144円65銭まで下落したのである。この日の大引けは36銭安の144円66銭。現物債をみると10年債主体に売りが入ったように思われる。10年債だけでなく超長期債も大きく下落し、中期ゾーンにも売りが入った。
債券先物の15日の高値と安値の差は38銭、前日比は36銭と債券先物の値動きとして、それほど大きいものではない。しかし、ここにきてあまりに膠着感が強く、一日あたりの値幅、前日比ともに小幅なものとなっていたことで、15日の債券先物の動きは目立った。
今回の債券先物の動きは一時的なものなのか。それともトレンドが変化する兆しであるのか。そもそも何故、15日に売ってきたのか。債券市場では手口が公開されておらず、どこが何をどのくらい売ってきたのかはわからない。しかし、動きそのものからはある程度の推測も可能となる。
今回の債券の下落は当然の如く起きたとみる向きも多かったのではなかろうか。相場の動きを見て11月6日あたりから地合が変わりつつあると感じていた。相場はこのまま崩れるかとみていたが、反対に戻りを試す展開となった。7日のECBの電撃利下げ、8日に発表された米10月の雇用統計、さらにイエレン氏の議会証言等とそれによる米債の動向にも影響されたが、結果として先物は145円を挟んでの動きとなっていた。
ところが15日に債券先物は崩れた。この背景のひとつにドル円が100円台をつけたことがあると考えられる。それにより日経平均も15000円台に乗せたが、日経平均の水準よりも、ドル円の水準に注意したい。これはアベノミクスをきっかけとした円高修正が進んで、今年5月にドル円が100円を突破した際の動きに似ていたためである。
日本時間5月10日の午前3時前に2009年4月以来となる100円台へ突入した。この円安を受けて東京株式市場は反発し、日経平均は2008年6月6日以来の14500円を回復。5月10日の債券先物は売りが先行し、144円45銭で寄り付いた。東京時間でさらに円安が進行しドル円は一時101円台に。後場に入り債券先物はサーキットブレーカーが発動し、中心限月の6月限は前日比1円安の143円72銭まで売られた。現物は10年債のカレントに売りが入り、2月25日以来の0.7%台乗せとなった。中期債や超長期債も先物の下落が意識されて売られたが、この日の売りは債券先物と10年債主導の売りとなっていた。
仕掛ける時間帯は異なっており、さらに5月はサーキットブレーカーが発動するなど派手な動きとなっており、このあたり違いはあるものの、債券先物と10年債主導の売りとなった点に共通項がある。翌日の5月11日も債券先物はサーキットブレーカーが発動するなど、下落は続き、5月15日に10年債利回りは0.920%に上昇した、しかし、この日の日銀のシグナルオペで買い戻しが入り相場は反発した。
このようにドル円の100円台乗せが、15日の債券相場のひとつのきっかけとなった可能性がある。仕掛けていたのは海外投資家の可能性が高いように思われる。ただし、今年に入ってのドル円の100円台回復は7月にもあった。5月のバーナンキ議長によるテーパリング発言で、ドル円は再び100円を割り込むが、その後ジリジリと切り返し7月3日に100円台を回復していた。この日の債券先物は一時11銭安の142円18銭まで下落し、現物10年債利回りは一時0.900%と6月12日以来の0.9%台乗せとなったが、当日中に切り返している。仕掛けはなかったとはいえないが、すぐに押し目買いが入っていた。さらに9月6日にもドル円が100円台をつけ、10年債利回りは0.790%に上昇したが、この時の先物の売りは限定的であった。
今回の債券先物の下落も一時的なものとなる可能性がある。ただし、膠着相場が長く続いていたあとだけに、それなりにボラタイルな動きをみせるかもしれない。今後の債券相場の動きを見る上でも、ドル円の動きにも注意しておく必要がある。