異次元緩和後の金融機関の状況(日銀レポートより)
日銀は10月23日に「金融システムレポート」を発表した。このなかの「金融仲介活動の点検-量的・質的金融緩和導入後の動向を中心に」を見ると、金融機関(銀行・信用金庫)の資金運用残高は全体として伸びを高めているとしており、「量的・質的金融緩和のもと、日本銀行による国債買入れが増加するなかで、大手行を中心に国債保有残高が減少した一方、日銀当座預金は増加。貸出が伸びを高めているほか、海外資産も増加。」とある。
日銀の異次元緩和によりポートフォリオ・リバランスが起きているかのような表現となってはいるが、貸出の伸びについては大手企業中心であり、企業向け貸出を業種別にみると、東日本大震災以降、電力会社向けの貸出残高が増加しているとしており、異次元緩和効果によるものとは必ずしも言えまい。
機関投資家など金融機関以外の金融仲介機関では、資金運用動向に大きな変化はみられていないとの指摘もあったが、これを見る限り異次元緩和によるポートフォリオ・リバランス効果はいまのところは出てはいない。
金融資本市場から観察されるリスク、なかでも国債市場からみたリスクについては、国債価格のボラティリティ 国債価格のボラティリティ(MFIV)は本年4月に上昇した後、緩やかに低下しており海外金利が総じて見れば水準を切り上げるもとで、わが国長期金利の安定が目立っているとしている。
この理由として、財政悪化懸念の高まりが窺われないなか、日本銀行の大量の国債買入れによる債券需給の引き締まりなどが指摘されていた。しかし、大きな理由がすっぽりと抜け落ちている。債券市場参加者は日銀の異次元緩和による物価目標達成は困難との見方をしており、デフレは簡単には解消できないとの見方も日本の長期金利の低位安定の背景にある。
「もっとも、債券市場では、金利上昇時ほどボラティリティが大きくなるという非対称性がみられており 金利上昇時ほどボラティリティが大きくなるという非対称性がみられており、何らかの金利上昇ショックが加わると、ボラティリティが高まりやすく、それがさらなる金利上昇を引き起こすリスクには注意が必要である。」
これは別に非対称性でも何でもない。株も上げるときより、下げる方がピッチが速くなりボラタイルな相場になる。債券も同様で、金利で見るとわかりづらいが、金利上昇とは国債価格の下落を意味する。債券も有価証券であり、保有している投資家も国債価格が急落すると、損失を限定させ、リスク回避のためにさらに売り売却を急ぐことになり、当然ながらボラティリティが大きくなる。それが異次元緩和翌日の4月5日の債券相場にも現れていた。相場が落ち着き、流動性も回復したことが、日本の長期金利の安定のもうひとつの背景となる。つまり異次元緩和で市場参加者の先行き見通しには、ほとんど変化が生じていない。何かしらの「期待」など生じていないということでもある。
そして、このレポートで最も注目されている金利変化にともなう金融機関の損失予想であるが、金利が1%上昇した場合に銀行全体での保有の債券に発生する時価損失額(イールドカーブはパラレルシフト)は6月末時点で約6兆円と、日本銀行が異次元緩和に踏み切る直前の3月末時点の6.9兆円から縮小した。
内訳として、大手銀行が3月の3.7兆円から2.9兆円に減少している。地銀は3.2兆円と変化なく、信金は1.8兆円から1.9兆円となっている。都銀は4月以降、国債残高を大きく減少させており、このために金利上昇に伴う債券時価の変動が小さくなっている。その分のリスクは国債を大量に買い付けている日銀に移ったともいえよう。